
映画を中心とした録音に関するコラムを不定期に掲載していきます。
筆者も順不同に変わっていきます。
クリックすると各コラムに飛びます
1.録音部について
2.映画の音関係の仕事の種類
3.Dialogue editでの環境
4.シグナルとノイズ
5.Pre Fader & Post Fader
6.録音部としての映画のワークフロー
7.My Sound Cart
8.Time Code Sync
9.撮影現場で使用されるMicrophone
10.録音助手の現場バッグ
11.音響効果の仕事
12.ハリウッドゴムの作り方
13.現場で使う代表的な音声コネクター
14.撮影現場の録音部用語
15.iPad/iPhoneでのSound Report
16.iPadでの台本
17.録音データのバックアップ方法
18.録音部として便利なアプリ
19.モニターの音量
20.リバーブとIR
21.Dante
22.撮影現場の音止めグッズ
23.録音部が使うDCコネクター
24.映画録音におけるワイヤレスマイク その1
25.Danteその2 撮影現場での使用例
26.マイクブームについて
27.録音部の使う同軸コネクター
28.ラウドネス
29.Low-Profile XLR Connector
30.Pro Tools & Meta data
31.Pro Tools & Meta dataその2
32.ワイヤレスマイク その2 周波数
33.USB PD電源
34.DANTEその3 SCORPIOとLTC同期 (上級編)
35.録音部内の役割についての考え
36.My Sound Cart 2
1.録音部について
普段意識することはあまりないかもしれないが、現在私たちが目にする映像メディア(映画、テレビ、ネット配信等)には必ずと言っていいほど音が付いている。出演者のセリフはもちろん、音楽、効果音がある場合がほとんどだ。映像作品の”音”を担うパート、今回は特に、劇映画の録音部の仕事を紹介したい。
録音部の仕事は大きく分けて2つの工程に分けられる。
1つめは撮影現場(Production)において映像に合った音声を収録すること。
現在デジタルビデオカメラやスマートフォンにはマイクが内蔵されており、動画を撮れば音も一緒に収録できるが、映画やTVドラマ等では外部マイクで拾った様々なマイクの音をカメラとは別のレコーダーに収録し、音のクオリティを上げている。
撮影現場ではマイクマン(Boom Operator)がブームと呼ばれる長い棒を使ってガンマイクを振って役者を追いセリフを収録する。人物の口元からマイクの距離が遠くなったり、顔の向きに合わせてマイクの角度を調整しないと、明瞭度が欠けた音になる。しかし、いくらセリフをよくしたいからといっても、ガンマイクが少しでもフレームの中に入ればNGになってしまうため、フレームに入り込まないギリギリを保ちつつ芝居を追い、さらに照明や太陽光を遮らないようにマイクを操りより明瞭で画に合うセリフを録っていくのである。繊細なコントロールと、安定して持ち続けるパワーが必要になる。
ブームマイクの他の方法として、人物につけるピンマイクがある。テレビの報道番組やバラエティーなどでキャスターやタレントの胸元にみかける様な小型のピンマイクと送信機を登場人物につける事で、一定の距離感でセリフを録ることが出来る。しかり劇映画やドラマにおいては、観客にはつけていることをわからないように仕込まなければいけない。そうすると衣擦れノイズがおきたり、明瞭度がかけてしまうリスクが増える。服の内側や、ネクタイの結び目の中、ボタンの裏側、髪の毛の中など分からない場所に工夫してピンマイクをつける必要がある。また、役者の動きや芝居に合わせて細かく調整が必要になる。
撮影現場ではその他にセリフの邪魔になるノイズ(遠くを走るバイクや車、電車、飛行機、ヘリコプター、通行人の話し声)を止めたり、過ぎ去るのを待ってもらう判断をする。
録音部の仕事2つ目は、仕上げ(Post-production)作業。
収録された音は映像と同じく「整音・音編集(Dialog Edit)」という工程がある。コンピューターでDAW(Digital Audio Workstaion)を使い、ボリュームや音質を整えて聴きやすい形に加工や調整、意図せず入ってしまったノイズを取り除いたりする。現在DAWはAVIDのPro Toolsが世界中の映画業界のスタンダードである。
必要があれば後から撮影した映像を見ながらセリフを収録するアフレコ(ADR)を行うこともある。
また、セリフ以外に演出的にも大きな要素でもある音響効果や、音楽のパートもある。セリフ、効果音、音楽の全体のバランスを整えてミックス(Dubbing)をして映像作品の音が完成する。普段当たり前に観ている映画の音も、当たり前に聞こえるためには、プロの様々な技術と労力そして時間が必要なのである。日本の映画界でいうところの録音技師とは映画全体の「音の監督=音の責任者」ということである。
簡単な説明ではあるが、普段世間ではあまり注目されることがない録音部はどんなことをしているのか知ってもらえたら幸いである。
筆者T.S 2020/6/12
2.映画の音関係の仕事の種類
<現場録音Production>
録音技師/現場の音の責任者・ミキシングと録音機を扱う
録音チーフ助手/各部への交渉・現場を指揮する・ワイヤレスマイクを出演者につける
録音セカンド助手/メインブームオペレーター・現場の最前線
録音サード助手/サブブームオペレーター・機材の管理
通常助手は3人のことが多いが、
作品の規模によって、助手や、応援(短期追加)の録音部が増減する。
必要であれば音響効果の担当者が、現場で環境音や乗り物などの音を録音する
<Post-Production>
・セリフ関係
録音技師(整音技師)リレコーディングミキサー
ダイアローグエディター
ADRブームオペレーター
・効果音関係
音響効果技師
SEエディター
フォーリーアーティスト
フォーリーミキサー
フォーリーエディター
・音楽関係
音楽プロデューサー
作曲家
演奏家
レコーディングエンジニア
トラックダウンミキサー
選曲 or 音楽エディター
・スタジオ関係
スタジオミキサー
スタジオエンジニア
筆者 K.T
3.Dialogue editでの環境
筆者のDialogue editでの環境
DAW=Avid Pro Tools Ultimate
Apple Mac Pro および Mac mini
Thunderbolt 拡張シャーシ Avid HDX / BlackMagic Decklink
AVID HD I/O
ADAM A8X
AVID Artist Mix
<Pro Tools Plug-ins>
筆者がよく使うもの
Waves SSL4000 (EQ & Dyn)
Waves DTS Neural Upmix
Izotope RX8 Advanced ←最も重要 most important
Izotope Neutron3 Advanced
Izotope Nector3
Izotope Insight2(Loudness Control)
Izotope Dialogue Match
AudioEase Altiverb7 XL
AudioEase Speaker Phone2
Iosono AnyMix Pro
Radix Auto Align Post
<興味があるPlug-ins>
AudioEase Indoor
Izotope Vocal Synth2
FabFilter Pro Q3
Dolby Atmos Production Suite
筆者K.T
4.シグナルとノイズ
音に携わる仕事上でどうしても理解してもらいたい概念がある。「シグナルとノイズ」について。録音機材の説明書だとS/Nと記述される。映画やドラマなどの実写作品のロケにおいて、撮影前によく質問されることに、「このノイズの大きさなら、音を録音するのに大丈夫ですか?」僕の答えは「場合によりますので何とも言えません。」
実写撮影における同時録音の場合は、現場で一番録音しなければならない音は、通常セリフがメインであることが多い。つまり録音したいのはセリフ。これをシグナルとすると。欲しくない音は全部ノイズ。例えば、、近隣工事、空調、冷蔵庫、換気扇、飛行機、発電機、救急車、バイク、交通、カメラやライトの音。
この「シグナルとノイズの差が大きければ、OK。差が小さいとNG」単純にこういうこと。
音源が小さいor遠い→ボリュームを上げる→ノイズも上がる
音源が大きいor近い→ボリュームを下げる→ノイズも下がる
人によって声量は違うし、脚本によって、芝居の感情によっても変わる、演出によっても、テイクを重ねても、変わる。(それが人間らしさや表現のひとつでもあるのだが)また物理的にマイクと音源の距離によっても変わる。カメラが広い画だったらマイクが遠い、クローズアップだったらマイクが近い。つまりセリフ録音の音量は絶対値では言えなく相対値である。
もし撮影関係なしに音楽演奏だけ録音したいのだったら、
楽器の音量はセリフに比べて大きいし、カメラのフレーム制限もないので、音量の予想もある程度できる。
なので、このノイズの大きさならOKと言えるかもしれない。
セリフの場合は音量の予想が難しい=シグナルの音量が不定
だからそれに対するノイズレベルもこのノイズの大きさならOKとはいえない。
例、家のロケセットで1週間撮影するとする。その間にいろんなシーンを撮影する。玄関で怒鳴り芝居、夜の寝室の静かな会話のシーン、食卓での家族の賑やかな会話の場面。各シーンの平均的セリフ音量は全然違う。
だから、怒鳴り芝居の時に、「今、本番中に救急車通ったけど、音大丈夫?」「???ヘッドフォンでは全然聞こえなかった」とか、
夜の寝室の静かな会話の時に、「隣の家の室外機の音が気になるから、本番中だけ消してもらえるように交渉できないか?」と制作部さんにいうと「今まで大丈夫だったのに、なんで今さら言ってくるんだ?」とか
「このライトのファンの音は、前の作品の録音部さんは問題ないって言ってましたよ」とか
こういったことが起こる。
こうだから大丈夫とか、こうだとダメとかの「撮影における同時録音は絶対値では言えない」ってことをみなさんにわかっていただきたい。また録音部からみなさんに常に説明する必要がある。
録音の環境の良し悪しというのは、シグナルとノイズの相対値
つまり状況による
It depends on the situation.
筆者K.T
5.Pre Fader & Post Fader
映画でのマルチチャンネル録音の方式について。
映画の現場録音は、10年以上前から、テープメディアでの録音機に変わり、HDDやメモリーカードでのファイル録音が主流になった。そして録音できるチャンネル数も多くなり、Mix トラック以外に、マイクごとのチャンネルも録音できるようになった。簡単な流れを書くと
< 旧方式Old type > Microphones → Mixer → Recodrer(2ch Mix)
< 現在Current > Microphones → Recorder with Controller (2ch Mix + ISO )
旧方式は様々なマイクをミキサーで音量を調整して、その2chのMix(Lch & Rch)を録音機に送り、録音機で録音する。概念は非常にシンプルである。マイクが3本以上の場合、つまり録音できるチャンネルよりマイクの本数が多いときは、もし現場でのミックスを間違えてしまうと、直すことはできない。
20年くらい前までは
MKH416 → Cooper Sound CS106+1 → Nagra 4s
という組み合わせが映画録音のスタンダードであった。
現在の方式はマイクをダイレクトに録音機につなぐことが多い。(もちろんミキサー経由の場合もあるが、今現在それは贅沢な方式になってしまった)そして、録音機自体にヘッドアンプやミキサー機能が備わっている。ダイレクトにつなぐことのメリットは配線やセッティングがシンプルで軽量なのと、コストを節約することができる。
ミキサーがなくなった分、録音機に接続するコントロールサーフィスにフェーダーが付いており、ミキシングはそれで行う。
僕の知っている限り、ポータブル機(フィールドレコーダー)だと
Sound Devices 788T+CL9がリニアフェーダーとしては先駆け(2010年)
現行のハイエンド機種は
Sound Devices Scorpio +CL16
Zaxcom Deva24+Mix16
Aaton Canter X3
Sonosax R4+/AD8+/LC8+
低価格なのだと
Sound Devices Mix Pre 10 II
Zoom F8n+FRC8
Roland R88など。
さらにiPadやiPhoneからBluetoothやWIFIで操作できるものも増えてきた。
話は戻るが、録音方式として「2Mix + ISO」と書いたが、このISOとは[ Isolate channel ] つまりMixされる前の、マイクそれぞれの独立したチャンネルのことである。現在の録音方式はMixだけでなくISOトラックも録音するのが当たり前である。さらにこのISOトラックは、プリフェーダーとすることが多い。一般的な音声信号の流れは、マイクからきた信号がフィルターや増幅回路、EQなどを通って、フェーダーに信号が送られる。フェーダーはご存知の通り、丸型や直線型のもので音量を直感的にリアルタイムで操作できるハードウェアである。フェーダーの後、音声信号はバスにまとめられ2ch Mix=LR busで、ヘッドフォンやスピーカーでモニターすることができる。なのでPre FaderのISOトラックとはフェーダーに関係ないマイクの信号そのままのトラックのことである。Mix前の素材と思ってもらえばよい。
そしてISOトラックのおかげでたくさんのことができるようになった。
例えば、
・セリフ喋っていない不要な瞬間のワイヤレスマイクの衣擦れ音をポスプロ作業で消す
・現場録音の後に改めて精度の高いRemixを作る
・セリフを一言上げ遅れたなどのフェーダー操作ミスを直す
・急に大声になって、マイクからの信号がオーバーして歪んでしまったのを別のマイクと差し替える
・ポスプロにおいてノイズリダクション処理をするときには、ノイズが一定になっているPreFader素材の方が作業がしやすい
などである
Post FaderでISO録音した場合は、改めてバランスを微調整することはできるが、不要だと思ってフェーダーを完全に絞っていた場合、ISOトラックも無音なので、なくなってしまった音を復活することはできない。
Pre Fader ISO Track→ フェーダー情報はない。フェーダーを絞っていても録音されている
Post Fader ISO Track→フェーダー情報がある。フェーダーを絞っていたら録音されていない 全ISOトラックの合計=Mix
今のプロ用ポータブル録音機は「2Mix+ISO」で録音するのが当たり前になっており、2Mixはオフライン編集用に送られ、ISOはポスプロの整音作業時に改めて使用する。
<8chレコーダー構成例> Ch1/boom mic.1/Pan=L/画面左中心 Ch2/boom mic.2/Pan=L/画面右中心 Ch3/lavalier mic.A /Pan=R/出演者A Ch4/lavalier mic.B /Pan=R/出演者B Ch5/lavalier mic.C /Pan=R/出演者C Ch6/lavalier mic.D /Pan=R/出演者D Ch7/Ambient Stereo Mic.L /Pan=L/フェーダーは上げない(Mixには送らない) Ch8/Ambient Stereo Mic.R /Pan=R/フェーダーは上げない(Mixには送らない) Ch9 Bus L Mix Ch10 Bus R Mix
とすると、2ch MixのL(Ch9)にはBoom Mix 、R(Ch10)にはLavalier Mic(Wireless Mic) Mix 、ステレオマイクはISOのみの録音になる。オフライン編集用2ch Mixには、ステレオマイクは必要ないので送られていない。
僕の個人的な感想だと、ISO素材があるようになってから、現場Mixを失敗を恐れず大胆にできるようになった。以前は、「このカットはガンマイク(Boom Mic)で成立しそうなんだけども、念の為ワイヤレスマイクもフェーダー上げておくか」などと無難なMixをしていたこともあったが、僕が自分で整音する作品であれば、間違えても自分の仕事が増えるだけなので、ガンマイクだけで大胆にMixして、うまくいかなかったらワイヤレスでなんとかなるだろうとして、ガンマイクのモニターに集中して、マイクマンの微妙なマイク操作の良し悪しがより判断できるようになった。
つまり
Mixは録音技師が作り出した音
ISOは録音助手が作り出した音
筆者 K.T
6.録音部としての映画のワークフロー
<Pre-Production プリプロダクション>
準備稿を読む
予算打ち合わせ
助手の手配
ロケハン(Location Scouting)
美術打ち合わせ・技術打ち合わせ
機材準備・カメラテスト
決定稿完成
オールスタッフ打ち合わせ
<Production 撮影>
クランクイン(撮影開始)
編集部にMixデータを日々送る
適宜 音ロケやアフレコ箇所のリストアップ
クランクアップ(撮影終了)
<Post-Productionポストプロダクション>
・オフライン編集期間のピクチャーロック前
録音データ整理・リネーム
アフレコ箇所の確認
音ロケ(撮影現場などで改めて音だけ録音すること)
・オールラッシュ(ピクチャーロック)後
編集部からQuick TimeとAAFデータ受け取り、セリフ整音開始
[筆者の整音の順番] AAF展開→ISO素材と全て差し替える→使用するマイクを選ぶ→ノイズ軽減作業→大まかな音量を決める→マイクごとの位相合わせ→EQ→ガヤ貼り付け→PanとReverb→最終的なセリフ調整
ダビング打ち合わせ(監督との音のイメージの確認)
劇伴打ち合わせ
アフレコ(ADR)
フォーリー(Foley)
劇伴音楽録音
音ロケ(撮影現場などに改めて出向き、音だけ録音すること)
適宜ラフセリフミックスを効果部などに送る
・ダビングスタジオ作業
プリミックス(監督に見せる前に事前にセリフ・効果・音楽の調整)
ダビング前に作品全体を監督チェック
ダビング(Final Mix)
Mix後 通してプレビュー
・DCP 0号・初号試写
問題がなければ、映画完成
・2次使用MIX
ME版MIx (国外吹き替え版用に、日本語を排除した、音楽(M)と効果音(E)のみのMixを作る)
DVD/Bluray版Mix(ダイナミックレンジやチャンネル数を狭めて家庭の環境でも聞きやすくする)
テレビOn Air用Mix(2chダウンミックスおよび必要であればラウドネス対応Mix)
宣伝用Mix(特報や予告用などの宣伝用素材MIx)
筆者K.T
7. My Sound Cart
あまりカッコイイ写真でないが、筆者のカートを紹介
Sound Cart/ Filmtools Magliner Vertical Junior cart
19inch Rack Case/ODYSSEY 19″ combo rack case
Recorder/Sound devices 688
Controller/Sound devices CL-12
Sub Recorder/Roland R44 →(今現在Currently) Zoom F6
HD-SDI Monitor/Atomos Samurai
Wireless Mic. System
Transmitter/ Wisycom MTP41s
Receiver /Wisycom MCR42 with PSC RF Six Pack
Anttena /Wisycom LNNA
iPad mini & keyboard for a Sound Report
Power Distributor /IDX VL-2S plus & Cable techniques Battery bud II USB


<特徴>
・ロケにでるので、一日中バッテリーのDCで駆動できる機材で構成されている。
・背面にコネクターパネルがあり、音声入出力コネクターや映像コネクタが集約されている。
・カート上部の19インチラックケース部分に電源も含めて録音機能が全てまとまっている。カートが搬入できないような場所(階段しかない居酒屋や学校など)はラックケースのみを持って行けば、セッティングを変えずに即座に録音ができる。
・電源はACアダプター付チャージャー 「IDX VL2S plus」(現行はVL-2000S)にV-mountタイプのバッテリー2つを使い、そこからBattery Budという電源分配器で12V DC 5系統とUSB電源に分配している。AC入力(コンセント)があれば、カート全体の電源を供給しつつ、余った電力でバッテリーの充電ができる。万が一AC電源が落ちても、自動的にバッテリーからの電源に瞬時に切り替わる。つまりUPSである。欠点は充電時に放熱のためにファン回るのでその音が気になるときがあること。
・サブレコーダー(F6)は基本688からの2ch Mixをバックアップとして録音しているが、688の12chのInputが足りない場合には13chから18chとしての6ch分追加することができる。F6は688とTime Codeで同期しているので、Pro Toolsでのチャンネル差し替えも簡単にできる。
またサブレコーダーのヘッドホンアウトをメインレコーダー688のリターンに接続しているので、ヘッドフォンはそのままでモニター切り替えボタンを押すだけでサブレコーダーを聞くことができる。
筆者K.T
8.Time Code Sync
Time Codeとはカメラ、録音機、デッキ、収録機、DAWなどの各種装置の同期を図るための「映像をベースにした同期信号」である。一般的にTime CodeというとSMPTE規格のLTCのことをいう。
LTCは1970年代からの非常に歴史ある規格で、その信号は「ギャラギャラギャラ・・・・」という音声である。
詳細は様々な文献に譲るとして、現場サイドでは具体的にどういうものか?
現場的の同期としての使い方は、「Rec Run」ではなく「Free Run」という常に時計のようにタイムコードが進んでいくという考えがベースとなる。カメラや録音機などを、「同じ日の何時何分何秒何フレームから記録して停止したのか」という情報をカメラの映像や、録音機の音声にメタデータ(付加情報)として記録して、編集時にそのメタデータのタイムコードを基準に同期をするという便利な同期システムである。
日本ではタイムコードのない古来からカチンコ同期方式が取られてきた。カチンコ方式はフィルム時代のカメラと録音機のテープを同期させる方式として、シンプルかつ確実な方法だと思う。またそれ以外の方法はあまりなかった。(タイムコードスレートはハイブリッドな方式である)僕はそれを否定するつもりはない。だが、現在のデータ収録のカメラと録音機においては、お金も手間も大してかからないのでタイムコード同期を使わないのは非常に勿体無い、というか併用すべきだと思う。特にドキュメンタリーのような、いつでも収録できる体制をとり、カメラが回っているのを被写体に意識させたくない状況下では抜群の効果を発揮する。ちなみに海外の撮影では常識である。
従来の方式を説明すると、従来は、高価なタイムコードジェネレーターを用意するか、もしくは基準となる機械(Master)のタイムコードを、タイムコードが従う機械(Slave)に
1,常に結線して外部入力としておく
2,Jam Syncさせそれぞれ自走させる
のどちらかだった。
1だと確実な同期がとれるが、ケーブルが邪魔になりMaster機もSlave機も機動力がなくなる
2だと機動力はあるが、数時間経つと数フレームずれてきたり、バッテリーを交換したり、電源を切ったり、カメラがハイスピード撮影したりすると同期がずれるという問題があった。
現在は安価かつ効果的な方法ができる機材がある。
1、小型の精度の高い自走式タイムコードジェネレーターをそれぞれ同期させ各機械につけ、機械は全てTC外部入力で同期する。
2、無線を使ったタイムコード同期(WTC)小型装置を各機械につけ、無線で常にMasterの機械とSlaveの機械を同期させる。
1はTentacle sync Sync Eが定番
2はTimecode sync UltraSyncが有名
筆者は双方使った経験として、1の「Sync E」をお勧めしたい。電波に依存しないシンプルなシステムで安定している。
<Sync E(シンキー)の使い方>
カメラや録音機の台数分のSync Eを用意し、電源を入れてiOSアプリ[ Tentacle Setup ]でbluetoothで同期させる。一台当たり数秒で終わる。タイムコードのマスターとなるのはスマホの時計である。朝一番にその作業をすれば、撮影終了まで同期作業をする必要はない(バッテリーライフは40時間)同じタイムコードを持ったそのSync Eをカメラや録音機などに取り付け、それぞれExt TC inで収録する。あとは、タイムコードに任せるままである(アプリから各Sync Eの状況はモニターできる)。Sync Eの台数さえ確保すれば、カメラや録音機が何台あっても、オフライン編集ソフトで、TC同期させるだけである。
実際、劇映画の編集部さんの話を聞くと、たまに数フレームずれることがあるようなので、TC同期していてもカチンコを入れておくのがベストとのことである。
また、Sync Eを買うと、[ Tentacle studio sync ]というソフトが無料でついてくる。そのソフト上で、Audio Time Code(Audio Trackに音としてLTCを録音する)を通常のLTCに変換ができる。この機能はBlack Magic DaVinci Resolveでも可能である。つまり、Time Code inがないDSLRカメラ、Go Pro、ジンバルカメラ、録音機にSync EからのTime Codeを音声として記録し、のちにそのAudio Time CodeをファイルのメタデータのLTCに変換ができ簡単に他の機器と同期できる。これは画期的である。
ちなみにSync Eには小さなMicが内蔵されており、Stereo Miniコネクターで接続すると、Audio Time Codeがinput1,内蔵マイクがinput2に送られる。
<追記>
Tentacle Sync E 以外に、DISH TCという新製品が出たので、紹介したい。GPSの電波を受信して、常にタイムコードを出力するジェネレーターである。つまりカメラや録音機にこのデバイスを取り付けて電源さえ入っていれば、何もしなくても常に同期しているということである。極端に言えば、例えば東京と大阪で電話をしている人をそれぞれ同時に撮影しても、タイムコードが同期している。非常にシンプルで良い。欠点は地下などではGPSの電波が入らないので、電池交換後は一度GPS電波を受けて同期してから、地下に入る必要がある。(GPS電波が受信できない場合はTCは自走する)
メーカーサイト
日本の販売サイト(Wind Audio Japan)
筆者K.T 2020/8/24追記
9.撮影現場で使用されるMicrophone
筆者が知っている限りの映画撮影で使われている同時録音用マイクについて。
ガンマイクと呼ばれることが多い。ブームで操作する性質上、軽量かつ風に強いスモールダイアフラムのコンデンサーマイクとなる。
Sennheiser MKH-416 超指向性 ← 定番
Sennheiser MKH-816 超超指向性
Sennheiser MKH-60 超指向性
Sennheiser MKH-50 単一指向性
Sennheiser MKH-8050 単一指向性
Sennheiser MKH-8060 超指向性
Sennheiser MKH-8070 超超指向性
Neuman KMR-81i 超指向性
Neuman KMR-82i 超超指向性
Neuman KM-185単一指向性
Schoeps CMIT 5 超指向性
Schoeps Mini CMIT 超指向性
DPA 4017 超指向性
DPA 4011 単一指向性
Sanken CS-1e 超指向性
Sanken CS-2 超指向性
Sanken CS-3e 超指向性
写真は、筆者の知り合いの録音技師が新規マイク購入に当たり、様々なマイクを集めてマイクテストをした時の比較写真である。上記マイクはSankenが日本メーカーという以外は、ドイツかデンマークのメーカーである。残念ながら日本メーカーは選ばれることが少ない。というか日本の録音部は日本メーカーのマイクをあまり好まない傾向がある。不思議なことに海外の録音部はSankenを好むことがある。
この中でもSennheiser MKH-416P48が最も有名である。プロの中で知らない人はいない。映画業界では「よんいちろく」と呼ぶと長いので「よんひゃく」と言われたりもする。また816は「はっぴゃく」。筆者はどちらかというと416をあまり使用しない方なのであるが、音質以外にも416の素晴らしいところは非常に頑丈であり湿気に強く故障などのトラブルが少ないことである。ENGでも重宝されている。
撮影と同時に録音する性質上、マイクは指向性があるのが好まれる。撮影現場には、さまざまなノイズがあり、それをコントロールできないことが多い、また、カメラのフレームの中にはブームマイクを入れてはいけないので、音源からの距離が離れることがあるからである。
指向性とはマイクが向けた方向に対して感度が強くなるという性質で、超指向性マイクはガンマイクと呼ばれる。指向性が強いほどマイクの音響管が長く、つまりマイク自体が長くなる。カメラレンズでいうところの望遠レンズである。音響管は位相干渉を利用して指向性を作るので、基本的に指向性が強いマイクほど、マイクを向けてない方向の周波数特性が悪い。(音がボケる)また、ガンマイクはノイズが大きい状況や音源に対してある程度離れている時に効果を発揮する。
逆に周りが静かな状況や、音源にマイクが近づけられる場合は、ガンマイクといった超指向性マイクではない方が、音質面、反響音軽減、音源にカプセルをより近づけられるといったメリットがある。
つまり筆者が言いたいのは、どんな状況でも同時録音では超指向性ガンマイクを使えば良いのではなく、マイクにも適材適所があるということである。全てにおいて万能なマイクはなく、状況に合わせてマイクを使い分けるのが重要である。
例えば、波の激しい海岸での撮影だったらMKH8070、街中のロケだったらMKH8060、静かな室内のインタビューだったらMKH8050など、状況によって変えることである。フォトグラファーがワイド、標準、望遠レンズを使い分けるのと同じことである。
筆者の個人的な趣味はデンマークのメーカーDPAの4017と4011で、この2種類のマイクで近年の映画は録音してきた。クセのない非常にフラットな音質である。外では超指向性の4017C、室内では単一指向性の4011Cをメインにしている。
筆者が言いたいのは、DPAを勧めたいのではない。一つのマイクに固執するのではなく、なぜこのマイクがふさわしいのか、また他にもっと見合ったマイクがあるのではないかと常に探求して欲しいということである。常日頃、録音技師の数だけマイクの種類があっていいと思っている。
筆者K.T
10.録音助手の現場バッグ

現場で録音助手の現場バッグ(持ち物)について
バッグにルールがあるわけではなく、それぞれショルダーバック、エプロン、ベストタイプと自分にとって使い易いものを選んでいる。中身もみんな違うのであくまでも一例ではあるが、録音助手が現場で持っていると便利な物を紹介する。
1、台本
2、スケジュール
クランクインからアップまでの全体のスケジュール(総合スケジュール)と1日ごとの詳細が分かる日々スケがある。これに沿って撮影が行われていくので、あらかじめ準備をする為には必須。
3、筆記用具
シャープペンシル、油性ペン
4、コミュニケーターレシーバー
録音助手や監督、他のパート用の、録音技師からの現場Mixやトークバックを聞くことができる無線の受信機である。録音するのに直接必要でなく、現場スタッフが聞くための手段である。全てのマイクの音が録音技師によってMixされ、その音を他の現場スタッフも聞いている。マイクを通じた音も聞いている事で現場ですぐに判断できる事も多い。録音技師とのコミュニケーションツールとしても欠かせず、他にも監督、スクリプター、言語・方言指導担当がセリフを確認する為にも重要。
5、グローブ
ケーブルを巻いたり現場作業は何かと手が汚れる。汚れた手で機材を触ることはできないし、安全の為にも必ず持っている。マイクを振る時のグリップノイズ(ブームを握る手の振動がマイクに伝わってしまうボコボコやググググといった音)を抑える効果も。素材の好みもそれぞれで、軍手派の人も多い。
6、ワイヤレスマイク仕込みグッズ(主にチーフ助手)
ピンマイクを仕込むグッズ一つでも様々な技があり、芝居の動きや、衣装、天候などに合わせて最良の音が録れるように繊細な作業がされている。
7、マルチテスター
直流や交流の電圧や電流、導通、抵抗などを調べる計測器。
他にも多くの機能が付いている機種もある。現場でのバッテリー残量の確認やケーブルの断線確認、現場のコンセントの電圧を確認したりと、機材の心臓部とも言える電気を知る為のもの。
8、予備電池
丁度よく休憩のタイミングでバッテリー交換していければいいのだが、撮影合間で交換が必要な事も多い。繰り返し充電できるNi-MH単三・単四電池が使われる事が多いが、状況に応じてリチウム電池など、長時間持つ物にバッテリーの種類も変えている。
9、ハリウッドゴム(通称ハリゴム)
マイクを置く時の一時的な固定や、ケーブルを結束したり多彩な用途がある。結構無いと困る。
10、はさみ
11、テープ
養生テープ、パーマセル、ビニールテープ、マスキングテープ、両面テープ etc
12、ヘッドライト
13、ドライバー
14、精密ドライバー(-)
マイクにアッテネーターや、フィルターの切り替えスイッチが付いている機種の時によく使う。
15、滑り止めシート
マイクを仕込む時などにクランプなどがしっかり止まり、柱や壁を傷つけない養生としての大事な役割もある
16、フェルトシート
椅子の脚や、靴底に貼る事で足音などがセリフにダブってしまう事を防ぐ
お祭りシーンなどでは100人以上の下駄に貼る事も・・
17、クッションシート
フェルトと用途は同じだがウレタン系の素材で、靴に貼る場合は床の材質によって滑って危ないので使い分けている。
18、JJ (Jack to Jack /Joint Jack)
アンテナケーブルや映像ケーブルを延長したい時に使うBNCコネクターの中継器、中心に白いリングが入っているのが50Ωのアンテナケーブル、リングがないのが75Ω
19、ジップロック
水にも強く養生にも使えるので、1枚はカバンに入れている。
個人的には台本は単体で肩掛けにしている方が、すぐに開けて便利なのでノートカバーをリメイクして使っている。
マイクを振っていると狭い場所も多いので、カバンはなるべく薄い方が好き。
この他にも常に、現場で必要になりそうなものを準備している。
筆者K.M 2020/6/19
11.音響効果の仕事
音響効果の仕事は、効果的な音を付加し、映画の音を色付けして作品全体のサウンドデザインをする仕事である。
実写映画やテレビドラマにとどまらず、アニメ、ゲーム、ネット配信作品、ネット動画、ドキュメンタリー、CMなど幅広いジャンルで活躍している。効果音はSound Effects(SE)(SFX)と訳されるが、一般の人たちが思っている効果音というのは、 拳銃の発砲音とか、ヘリコプターがド派手に離陸していくとか、時代劇の刀と刀がぶつかる音とか、「派手な音だけが効果音」と思っていることが多い。もちろんこれらは効果音の一部であるが、簡単にいうと「登場人物のセリフと、音楽以外の音は、全て音響効果の範囲」である。
例えば実写映画の場合だと、現場で録音した音だけだとストーリーは理解できるにしても、音の情報が不足している。音響効果が付加されると、バックグランドの環境、季節、時間設定、天気、空間の情報などがわかり、「映像だけでは表現しきれないことを、自然と理解することができる」
また、Foleyと呼ばれる登場人物の動きの音を足すと、「登場人物がいきいきと輝き、作り手が見て欲しい動作に観客の意識を誘導することができる」
普段気づかないが、映画の音を詳しく分類しながら観てみると、実はありとあらゆる音がしている。それの大半は現場で撮影と同時に録音した音(Sync Sound)ではなく、音響効果として付加されている音である。目立たないが観客に無意識に作用しているプロの所業である。
音響効果の仕事は「作品の世界観を音で構築できる仕事」である。また現場から仕上げまで長期間携わる録音部よりも、音響効果を仕事としている人はほぼポスプロ専門であるので、多数の作品を手掛けていて、経験値が高い。作品全体を冷静に俯瞰し、効果音が必要な場面では前に出て、あまり必要のない場面では後ろに引いて、メリハリを生み、作品に大きく貢献しているパートである。
<映画の音響効果の具体的な仕事について>
映画の「録音部」と「音響効果部」の仕事は、どちらも映画の音に関するパートであるが、仕事の内容は似て非なるものである。プロフェッショナルの世界では別々の担当者で行うことがほとんどである。そして日本の音響効果の担当者は、海外のように分業性でないことがほとんどで、効果音の以下の制作過程全てを担当することが多い。
- サウンドデザイン
- サウンドエディット(音付け作業)
- 現場などで効果音録音
- Foley Artist
- Foley Edit
- Final Mixでの音響効果の最終的な調整やMix
音響効果の担当している音を大きく分けると
1.Sound Effects
2.Foley
の二つに分かれる。
1,Sound Effectsを分類すると
・環境音(Atmosphere/Ambience) バックグラウンド、ベース音、ノイズ音、状況音
<例>木の葉の揺れ、小川のせせらぎ、蝉の鳴き声、雨、空調ノイズ、街の雑踏、レストランのガヤ
映像に厳密に同期を必要としないことが多い。(音源がはっきりと見えていない)
・効果音(effects) カットエフェクト ハードエフェクト(cut effect / hard effect)
<例>車の発車、携帯電話の着信音、インターフォンのピンポン、爆発音、銃の発砲
映像に対して音のタイミングが厳密な場合が多い
(音源がはっきりと見えている、もしくは登場人物の芝居に直接影響する)
またSound Effectsは、現場でその作品用に録音したものを使用することももちろんあるが、音響効果担当者独自の既存の効果音ライブラリーから使用することも多い。また日々ライブラリーを充実させるように努力している。
2,Foleyは
生音、効果アフレコとも呼ばれる。作品の映像に同期しているその映画固有の音である。主に登場人物の動きにつけるものが多く、芝居の動作や感情を音で表現している。
Foleyを分類すると
- 足音(step)
- 衣ズレ・アクション(cloth)
- 小道具類(prop)
- 食事(food)
などのジャンルに分類される。
実際のものを用意して忠実に音を録音したり、全く別物の素材でそれらしく聞こえるようにしたりする。
音響効果部のプロフェッショナルは映像を見ただけで瞬時に演出と芝居を理解し、体全体を駆使し音で表現できる。録音部では到底真似できないの特殊技能の持ち主である。音響効果部の一人だけでも、男性のスニーカーでのんびり歩く、女性のパンプスで怒っている足音、優しく髪を撫でる音、勢いよくビールジョッキを飲み干す、激しく地面に体が叩きつけられるなど様々な音を表現できる。
これこそがFoley Artistと言われる由縁である。
「Foleyスタジオ」と言われる専門の部屋では、地面や床の素材が多数用意されており、また、様々な小道具が用意されている。映像を見ながらFoley Artistが様々な状況の録音をできるようになっている。例えば、アスファルトの地面に革靴の状況であれば、実際の状況で足音を録音し、効率よく進める為に、同じ地面、同じ靴の環境を連続して録音していく。アスファルトが終われば次はリノリウム、土、砂利、畳、床など地面の素材のセッティングを優先して録音し、効率化を図っている。それでも映画1本でのFoleyを録音する期間は全体で2週間かかることもある。
話は少しそれるが、なぜそれだけの期間がFoley録音にかかるを説明する。
映画の音の要素は
1,Dialogue(セリフ)
2,Music(音楽)
3,Effect(効果音)
の3要素である。
ほとんどの商業映画では日本公開用の音声原版以外にも、海外言語吹き替えのための日本語抜きのMusic & Effect のみMix =「ME版Mix」を完成する必要がある。そのためには、Foleyで「画面上の全ての登場人物の動きの音を録音する必要がある」からである。
例えば、会話しながら、階段を上っていく3人のシーン、またファミレスで食事しながら会話する4人のシーン。海外吹き替え版用を作るために日本語を排除すると、会話部分の同時録音の音は全部無くなってしまう。つまり足音、衣摺れ、食器の音、食べ物を噛む音、飲み物を飲む音などの登場人物の動作の音がセリフと一緒に無くなってしまうのである。したがって、あらかじめ登場人物が出している全ての音をFoleyで録音する必要がある。
またFoleyは、タイミング、音量、音像定位などの調整(Foley Edit)の理由から、主要な登場人物ごとやジャンルごとに「個別に」録音している。なので、歩き続けている3人が出ている2分間のシーンであれば、足音だけでも[2分間x3回]の録音となる。すわなち2時間の映画でも膨大なFoley録音の量となり、能力・時間・人数が必要とされる作業である。
日本語のオリジナルのセリフは海外吹き替え版では無論、無くなってしまうが、音響効果の仕事で生み出した音は世界共通であり、無くなることはない。音響効果の観点で映画を見てみるとまた別の映画の見方ができるかもしれない。
筆者K.T 2020/6/21
12.ハリウッドゴムの作り方

ハリウッドゴム(通称ハリゴム)の作り方
①具材は丸ゴムとコードロック(コードストッパー)を用意
ゴムはアウトドア用のゴムで4mm程度の強度のある物を使用
コードロックの径にも種類があるので注意
②ゴムを50cmに切る
③輪になる様に2本まとめて結ぶ
④コードロックをゴムに通す
⑤ゴムの切口がほつれてくるので、ライターなどを使い少しだけ溶かす
⑥写真の様に切口が固まることで長持ちする
⑦完成
⑧ケーブル止めにしたり、マイクブームを置く際に固定したりと様々な場面で使われている。
現場に入る前の準備で30~40本くらいある様に作ることが多い。
これは、1番多く作るスタンダードなゴムの太さと長さだが、用途に応じてもう少し細いゴムや長いものを作ることもある。
筆者 K.M 2020/6/21
13.現場で使う代表的な音声コネクター
・XLRコネクター(キャノンコネクター)
プロ機材の入出力で使われるコネクター。マイクの接続など幅広く使われている。オス端子とメス端子があり、出力側がオス端子、入力側がメス端子であることが一般的である。(TV機材では逆のことがある)
ピンの数も2から7までありピンの数で用途が変わる。
マイクを接続したり、別の機材に音を送る場合はバランス接続のできる3ピン。
5ピンになるとステレオ(2ch)伝送でき、4ピンは電源として使われている。
ピンには番号がついていて、3ピンでは1番がGND、2番がHOT、3番がCOLDと国際規格で決まっている。
国際規格ができる前の機材だと2番と3番が逆になっているものがある。撮影現場では最も堅牢で使用頻度が高い。
・TA3(mini XLR /ミニキャノン)
ミニキャノンという名前の通り、小さいサイズのキャノンコネクター。TAの後の数字がピンの数。このミニキャノンもピンの数で用途が変わる。4ピンは電源、5ピンはステレオ(2ch)。
小さなサイズなため、小型な録音機やアナログ多チャンネル入力がある録音機に採用されることが多い。
Sound Devices社のScorpioでは1~6ch入力までは通常のXLRだが、7、8chはTA3、9~16chまでTA5が採用されている。
またケーブル着脱式のヘッドフォンにTA3が使われていることもある。
機器側は音声入力も出力もオスのことが多い、したがってケーブル側はメスが多い。
・フォーンプラグ
イヤホンやヘッドホンで使われているコネクターで様々なサイズや極数がある。
2.5mmをマイクロ、3.5mmをミニ(1/8インチ)、6.3mm(1/4インチ)を標準と呼ぶ。また、2極のものをTS、3極のものをTRSと呼ぶ。(T=Tip/R=Ring/S=Sleeve)
3極のものはステレオ(2ch)伝送できたり、バランス接続が可能である。
昨今のiPhoneなどのイヤホンやヘッドホンにはマイクがついてるものがあり、4極(TRRS)が使用されている。
撮影現場ではホールや結婚式場などで常設されているミキサーのアウトプットが標準であることがことが多く、ミキサーと録音機をつなぐ時などに使用している。
・RCA端子(ピン端子)
民生機のアナログ映像端子、音声端子として使われてきた。(代表的なのは黄、赤、白のケーブル)
VHSや古いゲーム機はRCA端子でTVと接続していた。また家庭用のAVアンプの入力端子はRCAが使われていること多い。最近ではHDMI端子で接続が多くなり、使われる機会が減っている。民生機とプロ用録音機を接続する時に使用する。
筆者 Y.T 2020/6/21
14.撮影現場の録音部用語
撮影現場ではいわゆる「業界用語」とも言うべき独特な言い回しでスタッフ間のやりとりが行われている。部署関係なく共通語になっている用語も多いが、今回はその中でも録音部の間でよく使われる用語の一部を紹介したい。
・1番マイク、2番マイク……
ガンマイクに振り分けられる番号。基本的にセカンドがブーム操作するメインマイクが「1番マイク」となり、ミキサーやレコーダーの最初のチャンネルに入力されることが多い。サブマイクは使う本数によって2番、3番……と順々に振られる。
・手前、奥、下手(しもて)、上手(かみて)
画のフレーム内における位置関係を表す。登場人物の配置や動き、複数のガンマイクを使用する際の分け方の目安になる。下手は左(Left)、上手は右(Right)なのでL、Rと言うこともある。マイクの振り分けをするセカンド助手は「1番マイクが手前、2番が奥、上手からフレームインする〇〇さんは3番で」といった具合に録音技師や他のブームオペレーターとやりとりする。
・寄り、引き
本来はカメラの画角を表す用語だが、ガンマイクと被写体(主に出演者)の距離感を表すのにも使われる。オン(寄り)、オフ(引き)とも言う。台詞の声量、画のサイズ、カメラワーク、ライティングなどによってマイクと被写体の距離は変わってくる。具体的な数値よりもガンマイク1本分の長さ(Sennheiser MKH416なら1本約25cm)を目安に用いることが多い。例えば、録音技師からブームオペレーターには「大きい台詞はテストより1マイク(マイク1本分)引いて」とか「画が寄ってるからマイクも出来る限り寄せておいて」といった指示が来る。
・仕込み
飾りの物陰などカメラに映らない位置にマイクを隠して設置すること。画角が広く、どうしてもブームマイクでは芝居位置に届かない時などに、ピンポイントの仕込みマイクが有効になることがある。戸棚の陰や机の脚、デスク小物の隙間、植木の葉陰……。センスとアイディア次第。
・サウンドオンリー
オンリー、Sオン。カメラを回さず音声のみ収録すること。OKテイクの台詞に予期しないノイズが被ったり、演出的に台詞の別パターンが欲しい場合など。
・ガヤ
飲食店や学校などのシーンで、メイン出演者以外の大人数のエキストラによる芝居。またそのザワザワ、ガヤガヤ。撮影時はメインの台詞とガヤのバランスを調整して同時に録るか、メインの台詞を確実に録るためガヤを喋っているふり(パントマイム、口パク)にしてもらい、撮影後、シーンの長さに応じた尺分のガヤをオンリー録りする。
・サイレントカット
無音。出演者が無く、画面上動きのない小物撮影などで、同録せずに撮影することを言う。事前に録音部から「このカットはサイレントです」と宣言するのが慣例。
・飛び
主にワイヤレスマイクの電波状況のことを指す。飛びが悪いとノイズが乗ったり、音が途切れてしまうこともある。受信アンテナを近づけたり感度を上げたりすることで飛びを良くする。
・プレイバック
音楽の演奏やダンスなどのシーンで、事前に録音した音源(プレスコ)に合わせて演技し、撮影すること。スピーカーで出す方法のほか、生歌や合間の台詞を同録するために小型のイヤモニを仕込む方法もある。
・待ち
特にロケーションでは撮影に適した状況を狙う為の「待ち」時間が発生する。音関係ではノイズ源となる乗り物(航空機、自動車、バイク、電車など)の通過を待つことが多い。近隣で工事作業などがあれば、事前に制作部さんを通じて協力をお願いし、本番時に作業を止めてもらうこともある。
筆者T.S 2020/06/22
15.iPad/iPhoneでのSound Report
筆者は2013年ごろから撮影現場のSound Reportを iPad にて記入している。
だいぶ使い方も慣れてきたので、この度ファイルを公開することにした。
このサウンドレポートを作成するキッカケになったのは、
録音機はWavファイルの「データ」として録音しているのに、なんでサウンドレポートは紙で手書きなのか?と疑問に思ったからである。またサウンドレポートに記入することのほとんどは数字であったり、マイクの分類であったり、登場人物名であったりと、単純なものやパターン化されていることが多い。なのでリストから選ぶだけで簡単に記入することができるのではないかと思った。さらに、日本の撮影スタイルは事前にカット割りをして、「カットナンバー」を決めることがほぼ常である。(海外は単純に撮影順にカットナンバーが増えていく)録音のデータにカットナンバーを打ち込もうとすると、録音機にキーボードをつないで、次のファイル名を事前に入力しないといけない。だから録音技師は助手に「次のカットナンバーは何だ?」と質問するが、カットナンバーは本番直前まで決まらないことや直前に変更することが多々あるので、時間の限られた現場作業の中で、技師も助手もストレスが溜まることがあった。
だからこの事前のカットナンバー問答の無駄な時間をなくし、本番後でもサウンドレポートに記入できるようにしたかった。そうすれば、もっと有効に現場の時間を使える。そう思ったからである。
録音機は録音する毎にファイルが「001」から順番に増えていく設定にして、撮影終了後、デジタルサウンドレポートから作ったシーンカットテイクのデータを元に、ほぼ自動的にWavファイルをリネームする方法を考えた。iPadを選んだ理由は、バッテリーライフの長さと、機動力である。Mac Bookなどでも同様のことはできるが、消費電力の面でロケーションではあまり実用的ではない。また2012年に「File Maker Go」というiPad用のアプリが無料になったのも動機としては大きかった。
<Sound Reportのコンセプト>
・フィールドレコーダー用にiPad・iPhoneなどから簡単にサウンドレポートを入力
・録音前だけではなく録音中や録音後にも記入し、フィールドレコーダーが自動でつけたファイル名を、後で簡単にリネーム
↑録音機で直接ファイル名を入力する場合は録音前にファイル名を記入しないといけなく、録音後での修正が面倒であるから
・シーン/カット/テイクを簡単に記入する
・ マイクの種類(目的)を簡単に記入する
・ pdfでサウンドレポートを作成する
・ ポストプロダクションでファイルの検索を簡単にする
・リネームを必要としない場合や、フィールドレコーダーでの音楽録音などでも使うことができる
<動作環境>
iPad (File Maker Go)
iPhone (File Maker Go)
Mac (File Maker Pro12以上が動作)
※iPhoneは画面が小さいので入力しづらい→Ver2.04にてiPhone用レイアウトを追加
<推奨環境>
File Maker Goアプリが動作するiPad
iPad用のキーボード
File Maker Pro 12以上が動作するMac
<フィールドレコーダーの要件>
8ch・12ch・16chの入力がある録音機
タイムコード対応が望ましい。
シーン・テイク・トラック名・サウンドロールなどのメタデータ対応が望ましい。
「フィールドレコーダーの例」 Sound Devices SCORPIO or 8シリーズ Sound Devices 6シリーズ Sound Devices 7シリーズ Sound Devices Mix Preシリーズ Zaxcom Devaシリーズ SONOSAX SX-R4+ Zoom F8nなどのFシリーズ Roland R88 AATON Canterシリーズ
文章で説明してもなかなか伝わらないので興味のある方はダウンロードして使ってみてほしい。ボタンを押したり、ドロップダウンリストから選ぶことで、毎回の入力をなるべく省いて簡単に記入できる。まず「Preferences」で設定を記入→「10ch・14ch・18ch」の好きなレイアウトで記入する。という流れである
画像の下にダウンロードリンクがある。


File Maker Go アプリのダウンロード(iOS専用)
約3MB
Ver.2.04にてiPhone専用レイアウト追加
iOSの場合はzipを解凍し、左下のアイコンから(もしくはダウンロードから) → File Maker Go とすると開くことができる
ファイルを開いたら、まず「Preferences」で設定を記入して「設定を有効にする」→
そのあと「10ch・14ch・18ch」の好きなレイアウトで記入する
↑Sound Report ファイルの中にも同じ文章が入っている。
Perfect Rename Mac用リネームソフト
無料ソフトだが「csvファイル」からリネームする機能を付加するのは有料(610円)
改善点や要望なども受け付けます。メールはこちら
バグなどの動作の不具合に対して責任は負いませんので、あらかじめご了承ください。
筆者 K.T 2020/6/23
16.iPadでの台本
iPadとApple PencilでGoodNotes5 という有料アプリ(980円)を使った、台本としてのiPadの使い方を紹介する。
このアプリはPDFやWord、イメージ等を読み込み、手書きメモやテキスト入力、写真などの追加ができる。
PDFの内容や追加したメモ内容を検索する事も可能。
台本として使うのに便利な機能を厳選して紹介する。
1、PDFのシナリオデータをインポート
ペンツールを使えば、紙に書くように書き込む事ができ、
シェイプツールを使えばフリーハンドで描いた線や図が、綺麗な線に変換される。

2、検索
PDFの本文から検索や、写真の様にテキスト入力したワードの検索も可能。
例えば、(記者ガヤ)と検索すればS#5で6月25日に撮影したと瞬時に分かる。

3、セリフ改定と差し込み台本
PDF上にはJPEG、PNGなどのイメージを挿入する事が可能。
台本改定がメールできた場合は、スクリーンショットなどで上に貼り付けている。
紙媒体での配布でも、アプリにスキャンの機能も付いているので、アプリ内での完結が可能。
トリミングして位置を合わせば、上から書き込める。


4、テキスト入力
メモやセリフの追加をする事ができる。
だが、最新のアップデートでもテキストの縦入力機能が追加されなかった。(縦書き文章のPDFの検索は可能)
ただ、フォントとサイズを選べば、画像の様に対応することはできる。
台本は基本的に縦書きなので、今後の機能追加が待ち遠しい。

5、2画面表示
日々スケ(日毎の撮影スケジュール)なども別途インポートしておけば、
台本と日々スケの2画面で表示が可能で、もちろんこの状態での編集もできる。

6、写真追加
機材メモの写真や、衣装の写真を台本上に残しておく事も簡単。
見たい時に拡大すれば良いので、普段は台本の邪魔にならない隅に貼っておけば良い。
アプリの詳細の使い方を知りたい方は、まとめのサイトを参照

※記事内に使用している書類はすべて架空のものです。
筆者K.M 2020/6/25
17.録音データのバックアップ方法
まず肝に命じておかないといけないのは、録音したオリジナルデータやそれを編集したPro Toolsセッションデータが、万が一無くなってしまった場合の「損失」である。データが消失した場合、それをなんらかの方法で取り戻すには、当然、多大な時間と、費用がかかる。作品のリリースまでのスケジュール変更が必要となる。そしてデータを失ったことによって、周りからの信用が無くなる。プロの場合では最悪二度と仕事がもらえなくなる可能性もある。
すなわちそれを避けるために、データを適切な方法でデータをバックアップする必要がある。
今日においてHDDなどのメディアの大容量化・低価格化・転送速度向上などが進み、バックアップ作業はより簡単になっている。ただし、デジタルデータの宿命として、データはいつでも壊れてしまう可能性がある。つまり、ある1つのメディアやHDDなどが壊れたとしても、録音やSound Editなどの作業が、直ぐに復旧できるようにスペアをいつでも用意しておく。(データの冗長化=redundancy)
筆者が考えるデータバックアップ方法
1,データは必ず3つ以上作る
2,データのコピーは人為的ミスを避けるために、バックアップソフトを使う
3,ハードディスクなどの置き場所を一箇所にしない
4,出来るだけ早くバックアップをする
1,データは必ず3つ以上作る
録音機からのデータコピーの場合は、録音機のSDカードや内蔵Diskのオリジナルメディアから、HDDなどにデータをコピーすることになる。バックアップを一度して、1つのデータが2つになっただけでは万全でない。次回バックアップするときに、AからBにフォルダをコピーするつもりが、BからAに上書きコピーしてしまい、BとAとも同時にデータ失うこともあり得るし、AからBのコピー中に停電やバッテリーアウトなどで電源を喪失した場合、A、B共にそのコピー中のデータが壊れてしまう可能性もある。最低限、バックアップは2回行い、オリジナルメディア含めて同じデータは最低3個は必要である。
具体的に、筆者の現場のバックアップの場合は
(1)録音機のSDカード、(2)ポータブルのSSD、(3)ポータブルHDD、(4)自宅の据え置きHDD1、(5)同HDD2、(6)編集部にファイル転送サービスで送信
上記6つのメディアにデータをバックアップしている。また録音機のオリジナルメディアは、念の為フォーマットする前に、丸ごとコピーを再度行なっている。
2,データのコピーは人為的ミスを避けるために、バックアップソフトを使う
先ほど書いたように、データをドラッグ&ドロップでコピーするときに一番怖いのは、「同一名のファイルorフォルダがありますが、上書きしますか?」と聞かれ「はい」を押してしまいデータを消してしまうことである。データをコピーするときには、MacのFinder画面上であれば、画面左は「転送元」、画面右は「転送先」にするなどとして、毎日の作業でルーティーンな動作にすると良い。また単純に、ファイルやフォルダをうっかりコピーをし忘れてしまうこともある。
これらを防ぐためには、筆者はバックアップソフトを使って、オリジナルメディアからバックアップ先のメディアまでのコピーを自動化するようにしている。オススメのソフトはMacの「Sync!Sync!Sync!」というソフトである、[バックアップセット]というプリセットが3個までならば無料で使うことができる。筆者の場合は無制限の1500円かかる有料版を使っている。
<Sync!Sync!Sync!の使い方>
まず左下の「+」ボタンを押して[バックアップセット]を作成する。コピー元のメディア全体やフォルダをドラッグして 「バックアップ元」に設定し、コピー先のメディア全体やフォルダを同様にドラッグして「バックアップ先」として、「バックアップ」を押すだけである。そのときのバックアップ方式は「同期コピー」もしくは「追加コピー」にする。
「同期コピー」は、コピー元の完全クローンをつくる設定である。「追加コピー」はコピー元にあって、コピー先にないデータをコピーするが、コピー先にあるデータを消すことはない。つまりより安全な方式である。ただ、コピー元の「子フォルダ名」を変更した場合は、実質中身が同じフォルダがさらに作られてしまうので、データ容量を無駄に使うことがある。
このソフトはオリジナルメディアAからB、BからCなどと複数のバックアップ作業をするときにも、自動でバックアップしてくれるので、非常に簡単であり、ヒューマンエラーが起こりにくい。
また、ポスプロのSound Edit時にオススメな方法は、Mac OSの「Time Machine」機能である。Time Machineは起動システムが入っているDiskをなんらかのメディアに自動バックアップするというのが通常の使い方であるが、筆者の使い方はちょっと違う。「作業しているオーディオデータ」が入っているDiskを、別メディアにバックアップしている。メリットはTimeMachineは差分バックアップなので、最初のバックアップ以降は、変更部分だけのみバックアップとなり時間が短いのと、容量が許す限り世代バックアップが残っているので、間違ってデータを削除しまった場合でも、任意の日付の状態に復旧することができる。注意点としてはこの方式はOS自体の設定を変更するために長期作業をする作品には向いているが、短期作業の案件には向いていないかもしれない。
<Time Machineバックアップの具体的な方法>
システム環境設定→Time Machine→バックアップ先のDiskを指定する(そのディスクはフォーマットされる)→[バックアップを自動作成]のチェックを外す→[Time Machineをメニューバーに表示]にチェックを入れる→オプション→[バックアップから除外する項目]に入っている作業Disk名をクリックして、下の「-」をクリックしてリストからなくす。(つまりバックアップされる)→起動システムが入っているDiskのバックアップが必要なければ、「+」を押してそのDiskを追加する(つまりバックアップされない)→ 保存
なお自動作成のチェックを外すのは、TimeMachineは1時間に一回バックグラウンドで自動バックアップするようになっているので、バックアップ作業が始まるとPro Toolsなどのパフォーマンスが落ちるからである。Pro Toolsなどで断続的に再生するような作業段階であれば、バックアップを自動作成でも構わない。
手動でバックアップをするためには、右上のメニューバーでTime Machineアイコンを押して、[今すぐバックアップを作成]を押す。筆者は、食事・休憩・1日の作業終了時に行っている。バックアップDiskさえ常につないでおけば、2クリックでバックアップ作業が開始するので手軽である。
3,ハードディスクなどの置き場所を一箇所にしない
カバンの紛失、盗難、災害などでデータが失われる場合もある。万が一に備えてデータの置き場所は1箇所にしないこと。例えば、機材車、持ち歩くカバンの中、自宅、作業場、クラウド上、オフライン編集室など、様々な箇所にデータは分散保管する。
ただし、その分情報漏洩の可能性も増えるので扱いには注意すること。
4,出来るだけ早くバックアップをする
1日の作業が終わったらデータをバックアップするというのが基本となるが「データの冗長化」のためには、なるべく頻繁にデータをバックアップして、データを複数のメディアに保存することが望ましい。プロフェッショナルフィールドレコーダーの中には、複数のメディアに同時に録音できるものが多い。例えばSound Devices SCORPIOの場合は内蔵SSDとSDカード1とSDカード2とで「3メディアに同時に録音」できる。またSound Devices Mix PreII シリーズのように、録音の合間の待機時に自動的にUSBメモリーにバックアップをしてくれる録音機もある。
筆者K.T 2020/6/29
18.録音部として便利なアプリ
筆者がよく使う、撮影現場・ポスプロ作業などで便利なiOSアプリを紹介する
Flightradar24(基本無料)
世界中の旅客機と一部のヘリの現在位置が見える(バッテリー消費注意)
ロケの本番前に飛行機が来るかが大体分かる
気にしすぎるとノイローゼになるのでほどほどに
FrequenSee (120円)
スペクトラムアナライザー
音の周波数がわかる。現場のノイズなどの対策に
NHK 日本語発音アクセント辞典(5500円)
10万語以上の単語を、NHKアナウンサーの音声付きでアクセントを調べられる。
ナレーション録音などにも便利。アプリの値段は高いが、辞典を買って持ち歩くのに比べれば格段に良い。
Meross (アプリは無料)
専用ハードウェアSmart wifi plug miniを用意しないといけないが、WIFI経由でコンセントを入り切りできる便利アプリ
例えば、現場の換気扇・冷蔵庫・水槽のポンプなど、音がうるさいが止めっぱなしでは問題があるので本番のみ電源を切りたいときにスマホから一括でOn Offの操作ができる。ただしSmart wifi plug mini自体がWIFI(ポケットWIFIも可能)に常に接続している必要がある。通常の100Vの2Pタイプのコンセント専用で、容量は1500Wまで対応。コントロールする側のスマホは4G接続などでも操作できる。
同じユーザーでログインすれば複数の機械を、複数のスマホでOn Offできる。
HollyView (アプリは無料)
Hollyland Mars 400Sなどの専用ハードウェアをカメラに取り付けないといけないが
カメラの映像を4台までiPhoneなどから見ることができる。
Mars 400sはHD-SDIおよびHDMI入力対応
SPL Meter (120円)
スピーカーなどの音圧レベルを測定できる。アナログメーター風画面。
AカーブCカーブ対応
筆者はSound Editのときにスピーカーからピンクノイズを再生しSPLレベルの確認で使うことがある。
No Budget Slate (無料)
小規模撮影用のSlate(カチンコ)アプリ
シーンとテイクを入力して、画面を右か左にスワイプすると、画面と音でカメラと録音機を同期できる。
タイムコード同期もできないしカチンコもない場合に有効。
LectroRM ($24.99)
LectroMote(無料)
Lectrosonics製のワイヤレスマイクの送信機を設定するアプリ
アプリから音を再生し、ワイヤレスマイクのピンマイクを通じて送信機のスリープ、ロック、ゲイン、周波数など変更できる。
無料のLectroMoteはスリープとロックのみしか使えない
MHz(無料)
海外用。主にアメリカなどで、現在地・指定した場所での使用可能なワイヤレスマイクの周波数がわかる
(日本国内は非対応)
電車系アプリ(無料)
電車のダイヤだけではなく、実際の電車の現在位置がわかるため、電車狙いの撮影、電車を避けて撮影など対応できる。
東京の鉄道会社のアプリを紹介
JR東日本アプリ
京王アプリ
東急線アプリ
西武線アプリ
小田急アプリ
Sound Devices レコーダー専用アプリ
Wingman
SD Remote(iPad only)
Zoom レコーダー専用アプリ
F8 Control
F6 Control
H3 Control
筆者 K.T 2020/6/30
19.モニターの音量
現場録音やDAWで録音やSound Editする時の、スピーカーやヘッドフォンのモニターする音量について
これはとても重要である。モニターとはTVモニターの意味ではなく、「監視する装置」のことで、音の場合はモニタースピーカーやモニターヘッドホンのことをいう。基本的に色付けされていなくフラットな特性のものが良い。
モニタリング音量が大きい → 録音(調整)する音量が小さくなる → 結果録音されたものが小さくなる
モニタリング音量が小さい → 録音(調整)する音量が大きくなる → 結果録音されたものが大きくなる
映画の場合は明確にモニタリング音量の定義があり、モニターする位置において規定のピンクノイズを鳴らして、スピーカー1つの音圧が85dB/SPL(Cカーブ)となっている。音圧を測定する騒音計で計測する。実際聞いてみるとかなり大きな音量である。また映画の場合はXカーブという2kHz以上から緩やかに減衰する特性に調整する。(ISO-2969)
テレビの場合は、家庭の視聴環境がまちまちのため、明確ではないが大体75-78dB/SPLというレベルでMixすることが多い。
現場録音の場合にはヘッドフォンで85dBを測定することはまずないが、モニタリング音量の管理は大切である。筆者の場合は録音機の内蔵1kHzの基準信号(-20dB)を再生して、自分のヘッドホンならこれくらいの音圧が適正だというのを感覚として覚えるようにしている。またフィールドレコーダーが変わっても自分の絶対音量感を信じて設定している。また映画の現場だとモニタリング音量は少し大きめ(録音する中身は小さくなる)、テレビなどの場合はモニタリング音量は少し小さめ(録音する中身は大きくなる)とすることもある。
もちろん録音機のピークメーターの振れも重要な要素であるが、録音機の種類によりメーターのdBの間隔やクセが違うので、メーターだけで判断するのは危険である。特に-20dBから0dBまでのメーターの間隔が違う。入力信号が大きいと黄色・オレンジ・赤になることが多いが、オレンジになったから良くないとかではなく、実際聞いている音量で判断するのが重要である。というのも現場録音は、被写体の動き・カメラワーク・モニター映像・台本・フェーダーなど、本番中に見なければいけないものがたくさんあるので、録音機のメーターを見ずに、音量感を知る能力が必要とされる。特に大きい怒鳴りセリフなどは歪みやすいので、ピークメーターが0dBに到達していないからOKではなく、音として歪んだり崩れたりしていないかを聞き分けること。そして未知のフィールドレコーダーで作業する時は、事前に人の声などでテスト録音し、DAW上で展開して録音された音量が適切かどうか知ることが必要である。加えて、初めてのMAルームなどで作業する時は、スピーカーのモニタリング音量がどのくらいか、スタジオによってまちまちなので、把握していないと危険である。
モニタリング音量は録音されるレベルを決めるのにとても重要な要素である。
筆者 K.T 2020/7/1
20.リバーブとIR
リバーブ(Reverbration)とは音の残響のことである。もしくは、残響を付加する装置やプラグインに対していうこともある。エコーと言われることもあるが、音響用語としてはリバーブというのが普通である。
残響のことを少し説明する。わかりやすい例として、人の歌声やパイプオルガンが教会らしい音に感じるというのは、特有の響きによるものが大きい。普段意識していなくても僕たちの周りにあふれている音にはほとんど残響がついている。また日常生活の中で無意識に空間の残響の経験は蓄積されている。例えば、森の中の鳥の鳴き声は実際はかなり残響がある。
身の回りでLive(響きが多い)な場所の例は「銭湯」「トンネル」「教会」「長い廊下」などであり、
逆にDead(響きが少ない)場所の例は「雪の積もった草原」や「シネコン映画館の客席」などである。
残響は「音の空気中で進むスピードが光より格段に遅い」という物理的要因で起こっている。
そして残響は
1、その空間の広さ(体積)
2、その場所の壁・床・天井などの素材・材質
に影響される。
これらによって、その場所固有の残響特性が生まれる。
「IR」(アイアール)とはImpulse Responseの略で、直訳すると「衝撃音の応答」という意味である。
IRリバーブとはコンボリューションリバーブやサンプリングリバーブとも呼ばれる。それは実際の場所で規定のインパルス音を再生し、その場所固有の響きを録音してデータとして採取し、リバーブとして活用することである。IRリバーブの面白いところは、実際の場所の残響をシュミレートできることである。
例えば、録音スタジオなどのDead(響きが少ない)な空間で録音した声を、まるで教会で録音したかのようにすることができる。IRリバーブプラグインは様々なメーカーがリリースしているが、映画などのポスプロ用途では、筆者は長年オランダAudio Ease社のAltiverb 7を使っている。Altiverb Ver.7のリリースは2011年12月で、2020年現在もVer.7.4.2なのでかなり息の長いプラグインである。操作は簡単で、ジャンルごとに実際の写真が載っているのでそこから好みのリバーブを選ぶだけである。音楽からポスプロ用途まで幅広く対応できる。ヨーロッパの有名な教会やコンサートホールなどはもちろんのこと、長いトンネル・ピラミッドの中、そして車の中・リビング・シャワールームなど家庭的なものまである。また「Altiverb 7 XL」という上位版だと5.1chサラウンドリバーブと384kHzまでのサンプリング周波数に対応する。
筆者が思うAltiverb7の最大の特徴は自分でIRを録音してオリジナルリバーブを作りだせることである。規定のSweep信号をダウンロードし、現場でスピーカーから再生してマイクで録音する。そのwavファイルを、プラグインの画面のIR Import画面にドラッグするとオリジナルリバーブが作成される。プラグイン画面に写真を登録するのも可能である。詳しい方法はこちらの動画を。自作できるのは「mono to mono」「mono to stereo」もしくは「stereo to stereo」である。
使用するスピーカーやマイクはAudio Ease社の推奨のものがあるが、必ずしもそれを使わなくても良い。スモールスピーカーやカチンコの音からIRリバーブを作成もできる。IR作成の懐が広いところが良い。
筆者の場合は映画の撮影現場で、出来る限り現場のIRを録音するようにしている。そのメリットは
- カットごとの響きの差を調整しやすい
- ワイヤレスマイクのオンな音(マイクと音源の距離が近い音)をガンマイクとそろえる
- 別場所で録音したアフレコやオンリーの素材を現場で録音したかのようにできる
- Foley・効果音・BGMを現場音になじませる
- 自分のオリジナルリバーブライブラリーとして、後の作品でも使用できる
現場で再生するスピーカーはスタジオモニター用のパワードスピーカーが一番良いのだか、筆者の場合はiPhone用のDCで動くスピーカー(5インチドライバー程度)でiPodからSweepを再生し、DPAのマイク4011(単一指向性)で録音している。このスピーカーの理由は、AC電源を確保するのが難しい場合があるのと、短時間でIR録音を済ませないといけないので、機材の機動力を重視しているからである。※無指向性のマイクの方がIR録音には向いている
筆者の経験上、撮影現場でIRをうまく収録するコツは ・周りの人が協力してもらい、静かにしてもらうか、休憩時間を狙う ・機材やセッティングをシンプルにする ・セッティングの手伝いや出入口に立ってもらうために人手を数人確保する ・Sweep信号はなるべく短いものにする(最長で30sec Sweep) ・Sweep信号は独特の音なので、周りに何の作業なのか事前に説明しておく ・静かになるのが難しい場所では、日を改めたり早朝や夜間にする ・マイクポジションはできるだけ左右対称にする ・現場の無人の写真を撮影しておく(プラグイン画面で使用する)
苦労は多いが、ポスプロ作業での自作IRリバーブの効果は絶大である。
参考までに、
先日、閉鎖される音楽録音スタジオのIR録音を手伝ったのだが、
それに関する
Sound & Recording(サンレコ)の記事
池辺楽器の記事
を紹介する。
筆者K.T 2020/7/2
21.Dante
「Dante」という言葉を聞いたことがあるだろうか?
デジタルオーディオネットワークの規格である。
以前から気になっていたが、最近までDante機器を使ったことはなかった。しかし最近のフィールドレコーダーにDanteが搭載されるようになったので、Danteについて調べてみた。
Danteはオーストラリアの「Audinate」という会社が開発した10年以上歴史のあるデジタルオーディオネットワークの規格。既存のIPネットワークとイーサネットケーブル、ネットワークスイッチ(ハブ)を利用しての非圧縮デジタルオーディオ信号を低レイテンシーで送受信できる。48kHz/24bitだとLANケーブル一本で最大 512ch 送受信できるという、凄まじい規格である。
簡単にいうと、家庭や会社にある有線ネットワークやその装置を利用して、オーディオデータが入出力できるようになったということである。
<Danteの概要>
・24/32bit 44.1 kHz~192 kHz最大512ch送受信
・IPネットワークのため既存のネットワークと共存や流用可能
・ケーブル・スイッチングハブなど市販品を使えるため、低コスト
・冗長化可能(主回線と副回線を両方構築でき、障害時は切り替わる)
・低レイテンシー(デフォルトのレイテンシーは 1 mSec )
・1本のケーブルの中にin/out/同期/コントロール信号が含まれている
・ネットワーク上のどこからでも全てのDante機器の信号を取り出したり、送ったりできる
・スイッチングハブを中心とした「スター型接続」なので柔軟にシステムを組める
・ルーティングはMACやWindowsのソフトウェア上で行うので、オーディオ接続に関係なくネットワーク上どこからでも操作できる
・ルーティング設定は個々のデバイスに保存され、保存すればコンピューターに接続していなくても実行可能
・PoE対応機器ならイーサネットケーブル1本でデータも電源も送ることができる(※PoEとはPower Over Ethernetのこと、PoE+は1ポートあたり30W、PoEは1ポートあたり15Wの給電)
簡単に言えば、太く重いノイズが乗る危険性のある従来のアナログ回線を、1本または2本のLANケーブルに置き換えることができる。施設に既存のLANがあればそのまま利用できる。また従来の配線の様に1対1で機器同士をつなぐ方式ではないので、機器同士すべてをとりあえずLANでつないでおけば、あとから柔軟にルーティングを変更できる。(ハブ無しでの1対1の接続ももちろん可能)
<Dante対応製品>
世界中の400以上のメーカーから発売されている
対応製品の例
- Dante AVIOアダプター
- IO( オーディオインターフェース)
- マイクプリアンプ
- フィールドレコーダー
- ミキサー
- パワーアンプ
- スピーカー
- ワイヤレスマイク受信機
- DanteドライバーをインストールしたMAC/PC
そのうちDante AVIOアダプターは低価格、PoE動作、プラグアンドプレイなので、手軽で現場向きである。またDanteドライバーソフトをインストールしたMACについては、以下で解説する。
<MacとDante>
1Gbps(1000BaseT)以上ののEthernetが接続できるMacが必要。Ethernetポートがない場合はUSB-Ethernet変換などを別途用意すればよい
必要なソフト
Dante Controller(無料)
設定やルーティングができ、Danteネットワーク全体を監視できる。Danteネットワークを構成するのに必須となる。このソフトだけではMacのCore AudioやPro ToolsなどはDanteネットワークに関連付いていない。
Dante Virtual Soundcard(DVS) (30ドル)
MacがDante対応のIOとなるための有料ドライバーソフト。Pro Tools でDanteを使う場合はこれがおすすめ
最大64IN / 64OUT
4ms, 6ms, 10ms の各レイテンシー(固定)に設定可能
Dante Via (50ドル)
既に使用中のオーディオインターフェースやアプリケーションをDanteとつなぐことができる。
接続しているハードウェアからは最大 32 in/ 32out
またDanteに接続するアプリケーションを取捨選択することができる。
各アプリケーションごとに16chIN/OUT
Dante Virtual SoundcardとDante Viaの違い
Dante Virtual Soundcardは多数のチャンネルを安定してコンピューターに入出力することを目的とするアプリケーション。一方、Dante Viaは少数のチャンネルにて多様なデバイスやアプリケーションとのルーティング、およびネットワークの構築を可能にします。
Audinateサイトより引用
Dante ViaとDante Virtual Soundcardをセット購入は60ドル
具体的な映画録音現場での活用法は改めて報告する。
筆者K.T 2020/7/6
22.撮影現場の音止めグッズ
現場での仕事の一つに、不要な音を出来る限り現場で消す・減らすという大切な仕事がある。以前、シグナルとノイズの記事でも少し触れられているが、今回は、具体的に現場でよく使う、音を止めるグッズを紹介する。
1、電源ON/OFF スイッチ
空調、換気扇、冷蔵庫、ビールサーバーなど音がうるさいが、ずっと切ったままだと問題があるので、本番に行く前に電源を切る必要がある。これを毎回最短時間でスムーズに行う為に、大抵以下の様な物をあらかじめセットしておく。
①コードタイプスイッチ(1200Wまで) スイッチの場所で切る必要がある。
②赤外線スイッチタイプ(800Wまで) ちょっと離れて切れるが、許容量が少なめ
③Wi-Fi スマートコンセント(1500Wまで)
これ自体がネットワークに繋がっている必要があるが、スマートフォンのアプリを使ってON/OFFの操作をする事が可能
※飲食店などの業務用冷凍冷蔵庫は200V駆動のものや使用できない物もあるので、細心の注意が必要。
2、靴裏、椅子脚シール
①フェルトシート:フローリングやリノリウムでは滑りを良くする効果。
②クッションシート:クッション性があり、滑りづらい。靴裏などに有効。
DIYグッズのマットシートで、両面テープを貼って使用している。市販のフェルトシートなどをそのまま貼ると、粘着剤が靴裏に残ってしまう事があるので、あらかじめ養生テープを挟んで使用している。この方が後が残りにくい。
3、ロールパンチカーペット(ニードルパンチカーペット)
撮影現場で養生などに良く使用されるパンチカーペットだが、録音部が使用しているパンチはラバークッションが付いており、特に吸音してくれる。フレームに入らない場合は芝居場の足元に敷いてセリフに被る足音を抑えたり、カメラワークなどによって動かざるを得ないスタッフの足音を消す為に使用する。
4、網
網戸に使われている網。水の音を抑えるのに有効なアイテム。
水が落ちて当たるところに置くと、水滴が分散されて消音効果が大きい。
蛇口から水を出す場合などにシンクに仕込んでおいたり、小川の中に仕込んだりもする。
5、すべり止めシート
ホームセンターなどで手に入るメッシュ状のの滑り止めシート。食器棚がガチャガチャ鳴るのを抑えたり、ガラス戸の間に挟んだり、自在に切って使える。
6、KURE 5-56スプレー
ドアの蝶番などが鳴ってしまう時に有効。無香タイプがオススメ。
7、タイヤクリーナー
カメラワークでレールを使用する際、台車との接地面で音が鳴ってしまう事が頻繁にある。特機部さんに相談のうえ、レールと車輪部分にスプレーしてウエスで拭き取ると音が抑えられる場合が多い。
8、シリコンスプレー
金属だけでなく、木材にも使用できるので引き戸や敷居が鳴る場合にも使用できる。
9、腹巻 (ストッキング/タイツ)
特機のタイヤを使った移動車の際に、床が板や学校によくあるリノリウムの素材だと、摩擦でギュルギュル音をでる。それを防ぐ為にタイヤに巻かせて貰う。100均などで買える腹巻で1周縫い目が無い物があるでオススメ。
筆者K.M 2020/07/06
23.録音部が使うDCコネクター

・DCプラグ/ジャック
パソコンや小型のスピーカー、ACアダプターなどに使われる丸型のDCコネクター。
サイズは5.5(外径)×2.1(内径)というように表記される。サイズが違いやセンターにピンがあるもの、長さが少し長いものがあったりする。極性は機材によって違う。メスプラグのところに書いてある。ACアダプターの場合アダプターに書いてある。種類が多いのでここでは見た目の形状が違う物を4つ紹介する。
① よく見る特徴のないタイプ。抜き差しが簡単にできる。引っ張ると外れる。
② 音叉型(フォーク型)と呼ばれるタイプ。センターピンを挟むようにできていて抜けにくくなっている。
(とはいえ引っ張れば外れる)
③ スクリュータイプ。海外製の機材で使われることが多いイメージ。DCプラグの抜けやすい弱点を補っている。
秋葉原電気街でも手に入るが、種類が少ない。
④ ロック式タイプ。オス側に爪がついており、メス側の溝と合わせて90度ひねることでロックすることができる。
メス側に溝がある専用のものでないと挿さらない。
使われていることはあまり多くないないが、RME社の4chマイクプリアンプQuadMic Ⅱに採用されている。

・極性統一プラグ/ジャック
ACアダプターの出力DCプラグ、機器側の入力ジャックにおいてコネクタ形状、極性、電圧を統一されているプラグ。EIJA(日本電子機械工業会)が定めた規格。このプラグを使用する場合、センターが+と定められている。定格電流は2A。電圧によって5種類に区分されている。

・XLR4ピン(キャノン4ピン)
マイクのコネクターで使われるキャノンの4ピン仕様。
定格電流は10A。極性は1番ピンがCold(-)、4番ピンがHot(+)。
ロックされる仕組みは3ピンのキャノンと同じで、挿せば簡単に外れることはない。
コネクターのサイズは3ピンと同じため多少大きい。
・TA4(ミニキャノン4ピン)
ミニキャノンの4ピン仕様。定格電流はREAN社、Switchcraft社は5A、ITTは3A。極性は1番ピンがCold(-)、4番ピンがHot(+)。その名の通り見た目と機構は通常のキャノンと同じでサイズは小さい。Sound Devices社のSCORPIOに採用されている。TA4コネクターはワイヤレスマイクのピンマイクのコネクターとしても使用されている。

・Hirose4ピン(HR10-7P-4P)
ヒロセ電気株式会社が作っているコネクター。小型のコネクター。
定格電流は2A。極性は1番ピンがCold(-)、4番ピンがHot(+)。
コネクターを挿し込むだけでロックする、プッシュプルロック機構が備わっている。ピンが金メッキの物と、ローコストタイプの銀メッキのものがある。Sound Devices社の788T、688などの録音機から、ワイヤレスの受信機のDC電源など幅広い機材に採用されている
筆者Y.T 2020/7/6
24.映画録音におけるワイヤレスマイク その1
ワイヤレスマイク(Wireless Microphone)は、電波で音声の伝送を行うマイクのことを言う。その名の通り、無線のマイクである。日本の電波法では特定ラジオマイク(要免許)及びラジオマイク用特定小電力無線局(免許不要)として規定されているが、本記事ではワイヤレスマイクと表記し、映画・ドラマ等の録音に用いられる機材についてまとめてみた。
※電波利用に関する基本情報やワイヤレスマイクを含む無線機器使用上の法規定・制度については、総務省の電波利用ホームページを参照
録音機材の中で「ワイヤレスマイク」として分類される基本的な構成は以下の通り。
<ラベリアマイク(ピンマイク)>
長さ1.5~1.8m程の細い音声コードの先に超小型の無指向性や単一指向性のマイクカプセルがついている。色は黒かベージュをよく使う。メーカーによっては白やブラウン等のカラーバリエーションがある。劇映画では衣裳の中に見えないように仕込む為、先端のマイクカプセルに、専用のパーツや生地を両面テープ等で貼り合わせたり、場合によっては風ノイズ低減用のウィンドスクリーン等で覆うなど、加工が必要になってくる。
<トランスミッター(送信機)>
接続されたマイクの音声信号を電波に変換して送信する。
・ボディパック型
ラベリアマイクと共に出演者の体に装着する。撮影現場で「ワイヤレスマイク」と言えば、基本的にこれのことを指す。電源は単3もしくは単4電池駆動の機種が多いが、内蔵型のリチウムイオンバッテリーを採用した、より小型で軽量な機種も出始めている。
・プラグオン型
XLR入力とファンタム電源供給が可能で、ガンマイクなどを無線化できる。ガンマイクの無線化によって、ブームオペレーターはケーブル(有線)を引回すことなくマイクポジションを決められ、手持ちカメラやステディカムなど動きのある撮影スタイルにも対応しやすい。

・ハンドヘルド型
映画やドラマ分野ではあまり使われないが、音楽やスピーチ用のハンドマイクと一体になった送信機。
<レシーバー(受信機)>
トランスミッターからの電波をアンテナ経由で受信し、音声信号に変換して出力する。アンテナ入力が2つあり、複数のアンテナでそれぞれ受けた電波のうち、より強い方の信号を選択するダイバーシティ受信方式のものがほとんど。
・ラックマウント型
19インチラックまたはハーフラックにマウント出来るタイプの受信機。機種によって異なるが、2~6波を同時に受信できるものが多い。ラックに組み込んで運用するスタイルになるので、可搬性は低い。
・スロットイン型
1~2波同時受信。専用のアダプターを着けることによって受信機単体によるENG仕様や、スロットイン対応のカメラや専用のインターフェースに組み込むなど、運用方法の選択が可能。インターフェースは機種によって2~6個のスロットがあり、搭載した各レシーバーに電源やアンテナ信号を分配出来る。
・その他
据え置き型、ENG用途の1~2波受けの単体受信機や、1/4カメラネジで他の機器に取り付けられる小型の機種もある。
<受信アンテナ>
ダイバーシティ受信が前提の為、通常2個のアンテナを1セットとして使用する。接続は通常、インピーダンス50ΩのBNCかSMAコネクター。
・ホイップアンテナ
受信機に直接取り付けるタイプの棒状のアンテナ。無指向性。
・指向性アンテナ
向きによって受信感度の強弱があり、アンテナの正しい方向を送信機側に向けることで安定した受信が可能になる。撮影現場の規模によって録音カートと芝居場の距離が離れる場合は、指向性アンテナをインピーダンス50Ωの同軸ケーブルで延ばし、送信機(芝居場)に近づける。受信機から同軸ケーブル経由で電源供給し、ケーブル延長によって減衰する信号を補うブースター(増幅器)を内蔵しているものが多い。ブースターなしのアンテナはパッシブアンテナ、ブースターありはアクティブアンテナと呼ぶ。ブースターはアンテナ信号の同軸ケーブルにアンテナ用のDC電源を重畳(ちょうじょう)させて使うことが多い。つまり同軸ケーブルでアンテナパワーを送る。アンテナパワーは必要ない機器に送ると壊してしまう可能性があるので、受信機やアンテナ分配機にはアンテナパワーのスイッチが付いていることが多い。

以上で述べた以外にもアンテナケーブルや細々としたアクセサリー類などを含めれば、録音機材の中でワイヤレスマイク関連の占める割合は大きく、取扱いに必要になってくる技術的知識も多い。今回はひとまずここで区切り、次回以降数回に分けて記事にまとめていこうと思う。
筆者T.S 2020/7/8
25.Danteその2 撮影現場での使用例(上級者向け)
フィールドレコーダーSound Devices社Scorpioを中心にDanteを利用した撮影現場での具体的な使用例を紹介する。(上級者向き)
<Scorpioの特徴>
最大32ch入力でMix bus4ch 合わせて36 track録音できる。Sound Devicesのフラッグシップフィールドレコーダーである。
・16chの プリアンプを備え、最大32ch Dante in/outに対応できる。
・アウトプットはLR以外にバランスアウトで6Out + アンバランスアウトで4Out
・この機能を備えて、バッテリー駆動でバッグに入れて担げるサイズである。
・オプションでCL16という16本のフェーダーを備えたコントロールサーフィスがある。
・またMCPに対応しているので、Platform M+などの低価格のフェーダーも使用できる。
・Danteポートが2つ搭載

例1 プレイバック+シンクロ撮影
<現場の状況>
筆者が以前関わった映画の現場で、バンドのライブシーンがあった。バンドの楽器演奏に関しては前もって録音・Mixをして、それを再生して撮影することになっていた。ボーカルに関しては、監督の狙いで、現場で実際にお客さんを前にして撮影して、そのボーカルを使用したいとのこと(つまりプレイバック+シンクロ撮影)であった。
さらにカットを割って何回も撮影するので、出演者の負担軽減のために、客席向けは現場で録音したボーカルを再生して撮影したい(現場録音後のプレイバック撮影)とのことであった。
プロの録音部の人ならすぐわかると思うが、こういう撮影方法は録音部にとってかなり負担が大きい撮影となる。出演者やエキストラの人数も多く、録音スタッフや機材が大掛かりになる。
出演者が使用する楽器やPA機材などはビジュアル的な要素も関わるため、録音部だけではなく、装飾部や持ち道具担当者なども影響する。事前の打ち合わせが重要である。
通常撮影の同時録音機材以外に用意しなければならないものは
・演奏者の使う楽器(現場の演奏は基本的に使わない)
・Vocalマイク(実際の音は使用される)
・PA用スピーカー(劇中設定で映っていい場合と映っていけない場合がある)
・音楽再生・録音用のPro Tools
当時はScorpioのようなDante機器が利用できなかった。今回はこの状況でDanteを使った場合の例を説明する。

「赤色のレコーダー」がScorpioである。
・Vocal Mic 1本
・Boom Mic 2本
・ステレオマイク1ペア
外部マイクは合計5ch
加えて、
・出演者につけているワイヤレスマイク(Lav Mic)が11波
と想定し、合計16chのアナログ入力とする。(プレイバック撮影中心なのになぜ11波かというと、ライブ前後やライブ中に、歓声や合いの手などを出している、出演者のupのカットに対応するため)
図1の「青色のPro Tools」は音楽再生+Vocal録音用である。
Pro Toolsからの音楽は現場のPA Speakerで再生するだけではなく、Scorpioに送り、録音しなければならない。
なぜなら、ポスプロでの時間軸合わせに必須だからである。特に音楽を再生しながら、観客の歓声などを録音したい場合は、本番途中に音楽を小さくしたり、時には途中で無音にすることもあるので、編集の尺度となるプレイバック音源はMixに不要でも、時間軸の基準としてISOトラックでは録音しておかないといけない。
従来の接続方法だとアナログ接続なので、Pro Toolsからの音楽の入力のために最低1chは録音機の入力が減ってしまっていた。しかしScorpioの場合は16アナログ入力が埋まっていてもDante入力でさらに16ch追加できる。つまり、DanteでPro ToolsからScorpioにプレイバックしている音楽を送る。さらにScorpioのVocalのISOトラックをDanteでPro Toolsに返し、音楽再生と同時に録音しておけば、のちにボーカル込み音楽を再生するカットにも、すぐ対応できる。従来は、図の赤い矢印の信号のやりとりを、アナログ接続でやっていたのだが、DanteであればLanケーブルでScorpioとMacを一本つなぐだけである。(ちなみにProToolsから2chのみScorpioに送りたいだけなら、USB接続で送ることもできる)

<さらなる拡張性1=入力の追加>
図1の「黄色い箇所」に、以下のような小型Danteマイクプリアンプを追加すれば入力を追加できる。(PoEスイッチイングハブ・PoEインジェクターなどを用意すればLanケーブルからプリアンプに電源も供給できる)
Neutric NA2-IO-DPRO 2ch Mic-preAmp & 2Line Out
Studio Technologies Model 5205 2ch Mic-preAmp.
Sonifex AVN-DIO09 1ch Mic-preAmp.
<さらなる拡張性2=バックアップ録音デバイスの追加>
多チャンネル録音になると、入力信号の管理が複雑になり、現場録音でのトラブルが起こりやすい。
例えば、とあるマイクの信号が全く来てなかった、ヘッドアンプのゲインが大きすぎた(小さすぎた)などということがよく起こる。しかし音だけを聞いてリアルタイムに全ての入力をチェックするのは一人の人間では限界がある。それに対処するには、リハーサルやテストの時にPro toolsで録音し、波形を見てみるとわかりやすい。
図1の「黄色い箇所」に「Dante接続のPro Tools」を追加すれば、Scorpioの32chまでの信号を録音できる。最終的にはScorpioの録音ファイルがメインだとしても、バックアップ録音やビジュアルフィードバックとして、もう一つのPro Toolsシステムが簡単に追加できる。
Dante以前にこのようにバックアップ録音をしようとすると、機材や配線が複雑になり、逆にトラブルの元になる場合もあった。なので従来のバックアップ録音としては「Mixのみ」を別レコーダーで録音することもあった。しかしトラック数が多くなればなるほど、「現場Mixは現場確認用および編集用のラフMix」という扱いになり、最終的に使われることは、ほぼないので、Mixのみ録音してもデータの冗長化(バックアップ)にはならない。Danteの場合はネットワーク上の全ての信号をどこでも取り出せるので、LANケーブル一本の配線で簡単に追加できるようになった。
例2 30本のMicを現場Mix

筆者が関わった現場の中でワイヤレスマイクを24波使い、ガンマイクを6本同時に使う現場があった。マイクの本数が30本になる大規模な現場Mix。この当時もDante機器を利用できなかったのだが、この状況でDanteを使った場合の例を説明する。
図2を参照
Scorpioを2台で、Mixerは2人想定である。
赤い矢印がDante接続でLANケーブル1本のみで、それぞれの15chのISOおよびMono MixをDanteで送受信している。
この場合2パターンの状況が想定できる。
<パターン1=30本のマイクを2人でMixする>
BのMono Mixを聴きながら、Aは1から15のマイクをMixし、そのMono MixをBに送る。
AのMono Mixを聴きながら、Bは16から30のマイクをMixし、そのMono MixをAに送る。
それぞれのScorpioの内部Mixには30本のMicのMixができる。
<パターン2=30本のマイクの「狙いの違うMix」を2つ同時に作る>
例えば、撮影現場に室内と屋外があって、出演者は室内と屋外を行き来している場合。
Aは室内のカメラ用のMix、Bは屋外のカメラ用のMixとして、映像に合わせたMixをそれぞれ作ることができる。
※実はこの場合、AはBのMixを必要としないので、16chのアナログ入力を全て使い、その16ch ISOをDanteでBに送ればよい(逆も同じ)
<さらなる拡張性=バックアップ録音デバイスの追加>
いずれのパターンにしても、Pro Tools(図の黄色)で30本のマイクと2つのMixは、バックアップおよびビジュアルフィードバックとして録音できる
マイクからScorpioまでの入力は当然アナログなので膨大な配線の本数になるが、レコーダー周りの配線はLANケーブルでなので、シンプルかつ、配線ミスも起こりにくい
筆者K.T 2020/7/9
26.マイクブームについて
マイクブームとは、カメラのフレームに入らない外から支持して水平に延ばし、先端につけたマイクを音源に近づけるための棒状の道具のこと。Boom pole、Mic Boomまたはサオなどと呼ばれている。各メーカーから様々な製品が販売されているが、その中でも映画やドラマの現場でよく使われている物を紹介する。
まず、素材の違いから大きくわけて2種類の”カーボンファイバー”と”アルミ”のブームがある。
・カーボンは軽量で耐久性も高く、現在は最も使われている。
・アルミは、重量はあるものの、カーボンにくらべてとても安価である。
種類も長さも値段も様々な種類があるが、現場でよく使われているブームは以下の様な点が共通しているように思う。
▷最低でも4m以上の物 →短過ぎると芝居場までマイクが届かず仕事にならない
▷耐久性がある物 →折れない (カーボンの質)
→しなり具合 (段数の数が多いほどしなりやすい)
→音が鳴らない(グリップ部分の素材やネジ部分の構造)
▷ある程度軽量である物 →疲れにくい
特にメジャーなメーカー3社
● Ambient
● K-Tek
● vdB AUDIO
他にも、カメラの一脚のカーボン技術が使われている製品などもある
●NEP
●GITZO
アルミポール
●アトミックポール(旗用の竿なので加工が必要)
4m以上の物を使用すると述べたが、長ければ良いかと言うとそうでもない。
ブームの全長が長くなるほど、段数が増えるか、ブームを一番短くした時の長さが長くなる。
段数が増えるとブームがしなりやすくなり、最短の長さが長いと狭い部屋などでは動ける範囲が狭まりとても扱いづらい。なので、撮影の場所に合わせて2~3本を使い分けている事も多い。
室内では4mほどのブームをメインに、屋外や体育館、ショッピングモールなどの広くて天井も高い所では5mのブームを使用する事もある。
さらに、室内などで非常にスペースが無い時やマイクを仕込む時の延長用として30cm~80cmくらいのとてもコンパクトなアイテム( HAKUBA一脚ポール )なども合わせ持っている。
各メーカーからも様々な長さ、段数、重量の製品が出ている。
以下の比較表は、主要な製品の最長と重量を表にした。

この比較だけでは比べられない、1日に何度も伸縮するのネジ部分の使いやすさや、グリップ部分の太さ、素材も様々で、しなり具合などにも違いがあったりする為、各々の使いやすさで好みのメーカーには個人差がある。
筆者K.M 2020/7/20
27.録音部の使う同軸コネクター
・BNCコネクター
映像の接続やワイヤレスマイクのアンテナ接続、計測機器に使われている。
先端のリングを半回転させることで内部のバネの力でロックすることができるバヨネット機構が使われている。大きく分けると映像信号に使用される75Ωとワイヤレスマイクのアンテナなどに使われる50Ωがある。使われる同軸ケーブルも75Ω、50Ωなど種類があり、マッチさせる必要がある。
自作する場合、半田付けタイプと専用の工具を使用する圧着タイプがある。既製品のケーブルを買う場合、型番で75Ωと50Ωがわかるようになっている。
3C2V、3D2Vと表記され、頭の数字がケーブルの太さを表しており、次のアルファベットがCの場合75Ω、Dの場合50Ωである。BNCコネクターで使用できるケーブルの太さは1.5~5まで。
コネクターの見た目で判断することができる(図参照)
BNCを延長するのに中継用アダプターが必要でこれをJack-Jack で「JJ」と言う。ちなみにこのJJにも75Ωと50Ωがあるので注意が必要。

・N型コネクター
ワイヤレスマイクのアンテナの接続や計測機器に使われる。BNCよりサイズは大きく、スクリューでロックする。75Ωのタイプもあるが50Ωが標準である。ケーブルは8D、10D、12Dの太いケーブルにも対応している。基本は半田付けタイプ。

・SMAコネクター
小型のコネククター。ワイヤレスマイクなどに使用されている。50Ωが標準。スクリューでロックする。コネクター自体が小型のため、小型の機械に使用されることが多い。
現場ではワイヤレスマイクの受信機のホイップアンテナに使用されていたり、小型のアンテナ分配器で使われている。RPSMAという中心ピンがメス側についているものがある。(写真はSMAのオス)

筆者 Y.T 2020/8/24
28.ラウドネス
ラウドネスについて
ラウドネスとは人が感じる音の大きさのこと
電気的物理的な音量とは異なり、人間の音量の感覚を数値化している。昨今、ラウドネス基準に沿った作品作りの機会が多くなった
作品の「音量」は、最重要要素のひとつであり、ラウドネス基準ができる以前は、いかに音量を大きく感じさせるか・音圧を高くするかに重きが置かれる時代があった。
例えば、CDから取り込んだ音源で、フルビットギリギリのアイドルPops曲と、クラシックジャズの曲を続けて聞くと圧倒的にアイドルPops曲の方が音圧が高く、印象としては強くなる傾向がある。クラシックジャズの曲は、ダイナミックレンジを広くとり、音の大小も積極的に表現の一部としている。
これらはあまりにもジャンルも時代も違うので個人的な趣味の視聴では大して問題にならない。
だが、TV番組やインターネット配信でのコンテンツの音量となると話は違う。いろんなコンテンツを聞くたびに、音量がバラバラで、視聴者側でボリュームを調整する必要がないようにしないといけない。作品毎に音量の基準が必要となる。またCMや広告動画になるとうるさくて聞いてられない状態になってはならない。
ラウドネスの概念は難しく感じるかもしれないが、以下の基本要素をわかっていればよい
<1> LKFS(LUFS)
<2> True Peak
<3> Loudness Meterでの計測方法
<4> 目標の平均ラウドネス値(Integrated Loudness)
LKFS(LUFS)
Loudness= 人間の音量の感覚
を数値化するために以下の単位を使う。
Loudness K-Weighted Full Scale(LKFS)
Loudness Unit Full Scale(LUFS)
という単位で表し、その差はLoudness Unit(LU)で表す。LKFSとLUFSはほぼ同義で使われている。
一見難しく感じるが、dB表記と同じ感覚で扱えば問題ない。
例えば単純に1kHz-20dBトーン信号のWavファイルを計測すると、-20LKFSとなる。
ただしフィルターを通すので1kHz以外の周波数では同じにはならない。
Kフィルターを簡単に説明すると、100Hz以下はロールオフ(だんだん感度が下がる)
1kHz以上は3dBほど感度が上がる。
人間の耳は周波数特性がフラットではなく音量によっても周波数特性が変化するので
こういったフィルターを通し人間の聴感に近づけたものをラウドネス値としている。
このラウドネス値を作品や番組の全部の値を平均化したものが、平均ラウドネス値(Integrated Loudness)と言われる。
いわゆる、「ラウドネスいくつだった?」などの会話で使われるのはこの平均ラウドネス値である。
True peak
ピークメーターで0dB以内に収まっていても、D/A変換する際のリサンプリングなどによって0dBを超えてクリップしてしまうことがある。その「本当のピーク」のことをTrue Peakと呼ぶ。True Peakは概ね-1dBや-2dB以内としなければいけないことが多く、リミッターなどでピークをつぶす必要がある。
ラウドネスメーターLoudness Meter
ラウドネス測定にはメーターが必須である。ただし生放送やライブ配信でもない限りハードウェア測定器は必要なく、
DAW全盛の最近はラウドネス測定用のPlug-inを使うことが多い。
最終段のMixバスにインサートしてリアルタイムに測定ができるもの(Insert系)と
Mixされたファイルを分析して、結果を出すもの(Audio Suite系)とがある。
筆者が使用したことのあるPlug-inは以下である。
Nugen Vis LM
iZotope Insight2 (Loudness control)
Waves WLM
上記3つの機能としては大差ないが、よく使う目標値がプリセットで入っていると使いやすい。
またファイル全部を分析して、History Graphが出るタイプのものは、全体の音量のばらつきや、何分何秒のTrue Peakがオーバーしていたか瞬時にがわかるので便利である。
目標の平均ラウドネス値
ターゲットラウドネスとも呼ばれる。
・日本のテレビ放送
-24LKFS(±1dB)TP-1dB
・Youtube
公式見解ではないが、様々な人が検証した結果 -14LKFS ではないかと言われている。
それ以上のラウドネス値でアップロードすると、再生時に自動で音量が下がる。
・Netflix
Dialogueベースで -27LKFS(±2dB) TP-2dB
詳細はHPで公開されている。
他にも動画や音楽配信サイトごとに独自の基準を設けている。
日本のラウドネス基準の先駆けとなった地上デジタル放送のラウドネスについて
ITU(国際通信連盟)基準の BS.1770と1771が基本となって、
「ARIB TR-B32」と言われるテレビ放送用のラウドネス基準ができた。2012年10月に適用。
ARIBとは一般社団法人電波産業会のことで、そこの定める技術基準のTR-B32 ということである。
テレビ番組は-24.0LKFSを目標に作成しなければならない。そして±1LUまで認めるということである。
つまり-23.0LKFS以下でないと納品できない。そしてTrue Peakは-1dB以内である。
また注意点としては、測定には「ゲート回路」があるので、平均ラウドネス値を下げるために無音の箇所を入れたとしても無音の箇所は測定値には反映されない。
難しくなってしまったので、簡単に書くと
<例>地上デジタル放送のテレビドラマのMix
Mixをバウンスして、2chのWavファイルに書き出し、
ラウドネスプラグインでARIB TR-B32に設定し測定する。測定値が-22.5LKFSだった。
目標値が-24.0LKFSなので、1.5LU(dB)オーバーしている。
なので、単純にMix全体を1.5dB下げれば -24.0LKFSになる。
そういう下げ方をしたくなければ、コンプやリミッターで全体を叩いてもよいし、
場面ごとに細かく調整して、-24.0LKFSを目指す。
あとはTruePeakが-1dB以内の必要がある。
筆者の場合はあらかじめ最終バスの手前でリミッタープラグインで-3dBシーリングしている。
まとめ
ラウドネスの基準ができたことにより、音圧戦争に終止符が打たれ、様々なコンテンツごとに適切なラウドネス値になるようにそれぞれに適したMixができるようになった。現在はポストプロダクションのミキシング作業において、また音楽のマスタリングにおいて、ラウドネスの概念を踏まえてMixすることは必須になっている。
映画づくりでは一見ラウドネスは全く関係ないように思えるが、映画劇場用CM(シネアド)にラウドネスの上限はある。また、2次使用としての映画のテレビオンエアー用Mixには当然テレビのラウドネス基準にのっとる必要がある。すなわち映画の仕事しかしていなくてもラウドネスに関する知識は必要となってくる。
筆者K.T 2020/09/24
29.Low-Profile XLR Connector
現場録音機材で役に立つLow-Profile XLR Connector(小さいキャノンコネクター)を自作する方法を紹介する。
工具を揃えて作り方に慣れてしまえば、いわゆるL字キャノンコネクター(例NC3FRX-BAG)より小さく軽量で安く作ることができる。
概念としてはNEUTRIK XXシリーズのブッシングの部分を使わずにXLRコネクターを制作し、抜けどめ対策としてイモネジで止め、ブッシングの代わりにプラスチックのキャップでフタをする。
ブーム用マイクハンガーのような省スペース性を必要とするものや、バッグスタイルのフィールドレコーダーの配線を省スペースにできるといったメリットがある。

<必要なもの>
1. Neutrik (ノイトリック)XLRコネクター
NC3MXXもしくはNC3F-XX
(XLR4ピンでも可能)
2 MOGAMIマイクケーブルの3031(¥100/1m)
ほか、直径3mmのマイクケーブル
3 3mmのケーブルに使える細いスミチューブ
(スミチューブとは熱を加えると収縮するチューブのこと)
4 穴埋め用キャップ(下のどちらか)

①モリギン 薄板用穴埋めキャップ
W-85 (18.7mm黒)
W-96 (18.7mmアイボリー)←写真のもの
ネット通販で購入可能
②芝軽粗材株式会社のBB-625というキャップ(黒色)(ブラインドブッシュ)
秋葉原の[ネジの西川]で売っているがキャップの深さがモリギンより1.6mm深い
5 六角穴付き止めネジ”M3で長さ6mm”(使用六角レンチ1.5mm)(いわゆるイモネジ)
ホームセンターで購入可能
6 極小のインシュロック(結束バンド)
ケーブルが引っ張られたときにハンダ付け部分に力が加わらないよう内部で止める
<必要な工具>
- 電動ドリル
- 2.5mm鉄工用ドリル刃(ホームセンターで売っている)
- 3.5mmもしくは4mm鉄工用ドリル刃(ホームセンターで売っている)
- M3用のタップ(ホームセンターで売っている)(タップとはM3ネジにあったネジ山を切る工具)
- ハンダゴテとハンダ
- 1.5mm用 六角レンチ
- 細いやすり(穴のバリをとる)
- ドリルの穴の基準をつくるセンターポンチとカナヅチ
- ニッパーやカッターやストリッパーなどの一般的なハンダづけをする時の工具
<作業のコツ>
まず抜け止めの六角穴付き止めネジ(イモネジ)を設置するためにコネクタシェルの部分に2.5mmの穴を開ける
場所はNC3M-XX(オス)だとNEUTRIKの”K”の箇所
NC3F-XX(メス)だとnc*fxxの最後の”x”の箇所
ハンダづけされるコンタクト部分のプラスチックの箇所にイモネジがハマり固定するイメージ
センターポンチで印をつけ、ドリルで2.5mmの穴あけをする。その後、M3用のタップでネジ山を切る。
NC3F-XX(メス)だとハンダつけされるコンタクトのプラスチック部分にも1-2mm程度穴あけが必要になるので、コネクタシェルの穴あけ後、コンタクト部分をコネクタシェルに入れて、2.5mmのドリル刃で深さ1-2mm程度慎重に穴あけする。(オスの場合はコンタクト部分のシールド部分にハマるので必要ない)
写真の赤い丸の様にM3のイモネジが取り付けられるようになる

それとは別にケーブルを引っ張りだしたいところに3.5mmもしくは4.0mmの穴を開ける。
ケーブル用の穴を開ける場所は、三重線より1から2mm先端側。(写真の黄色い丸)それより後ろ側にするとキャップと干渉してしまう。
穴あけは3.5mmから4mmだとスミチューブをしても穴に通る。
ケーブルを痛めないようにやすりでバリ取りをする。
穴あけ後、コンタクト部分にハンダづけをして、スミチューブをつけて収縮させて、穴に通す。
内側で結束バンドで殺し、外側から引っ張られたときにハンダづけ部分に負荷がかからないようにする。
外側からさらにスミチューブをつけて補強してもよい。(スミチューブはケーブル保護が目的なので、必須ではない。写真はスミチューブはついてない)
最後にキャップをして終了

ハンダづけの段取り上、ハンダづけしてからケーブルを外に出す穴に通さないとやりにくい。つまりケーブルの両端ともLow-Profileコネクターにすることはかなり難易度が高い。反対側は通常のコネクターでないとやりにくい。だが、熟練すれば以下のような極小オスメスケーブルも作成可能。

2020/11/11 筆者K.T
30.Pro Tools & Meta data
メタデータ(Meta Data)とは、データの本来の情報とは別に付加された情報のことである。
具体例を挙げると
スマホで撮影した写真のjpgに付随している、GPS情報や、撮影日時、カメラ、絞り、シャッタースピードなどの情報のこと。
Wavファイルだと、本来の音声データ以外の録音時のタイムコード、サウンドロール、トラック名、シーンやテイクなどのことをいう。
プロ用のフィールドレコーダーは、録音時に様々なメタデータを記録することができる。
プロ用フィールドレコーダーはこちらを参照。
Pro Tools Ultimate(HD)では、(たしかver7.2から)フィールドレコーダーのメタデータに対応している。
ただしノーマル版のPro Toolsでは非対応である。
フィールドレコーダーのメタデータを元に、現在のマイクのトラックから、右クリックすれば別のマイクに瞬時に切り替えることができる。
また、オフラインのAAFデータをガイドトラックとして、オリジナルのレコーダーのデータに簡単に展開することができる。
(オフライン編集時において、カメラで記録した音声ではなく別で収録した録音機のWavデータを使用している場合のみ)
さらに、フィールドレコーダーも持っていないし、録音やMixはPro Toolsでしかしないという場合も、メタデータを利用して非常に便利な機能があるので紹介する。
筆者の動作環境はMac OS10.15 でPro Tools Ultimate 2020.9
<Pro Toolsでメタデータにてトラックを置き換えるための条件> 1.ファイル録音時にタイムコードが記録されている 2.タイムコード以外に何か別のメタデータが記録されている この条件はPro Tools の「フィールドレコーダーチャンネルの一致条件」で指定することができる 3.Pro Toolsのガイドとなるトラックで「フィールドレコーダーガイドトラック」にチェックを入れる

<1について>
フィールドレコーダー、ハンディーレコーダー、Pro Toolsなど録音されたほとんど全てのwavファイルにタイムコードは記録されていると思ってよい。タイムコード機能がない場合はファイル頭が00:00:00:00からスタートか、録音機の内蔵時計の時間(RTC=Real Time Clock)をスタンプしてあるかどちらかである。
<2について>
ここが一番重要である。
簡単にいうと、メタデータに「シーン」と「テイク」が入力されているということである。
プロ用のフィールドレコーダーでは、シーンとテイクのメタデータを入力できる。
例 Scene=087A Take=003
カットはないのかと思うかもしれないが、海外表記ではシーンとテイクが標準的である。
シーン087の最初のカット 087 take1
次のカット 087A take 1
さらにその次 087B take 1
とシーンナンバー+A→B→Cと増えていくのが海外のスタンダードである。
このシーンとテイクは、レコーダー本体で毎回入力してもよいし、キーボード、スマホ、iPadなどで入力できるレコーダーもある。
または、朝一番に日付などを入力して録音するたびに001→002→003と増えていくのでも良い。
要は「そのテイク固有のメタデータ」があれば良い。
民生用の録音機はこのシーンとテイクのメタデータがないことが多い。
<3について>
Pro Tools のEdit画面の元となるトラックで「トラック名」を右クリックする
表示される「フィールドレコーダーガイドトラック」にチェックを入れる。
(ガイドトラックになるにはmonoトラックである必要がある。)
フィールドレコーダーガイドトラックになったトラック名をもう一度右クリックし「フィールドレコーダーチャンネルの一致条件」をクリックし条件を確認する。シーン・テイクが記録できるレコーダーの場合はデフォルトのままで問題ない。
以下具体的な例を紹介する。
<活用1> とあるクリップを別マイクに差し替える時
Mixトラックのとあるセリフの部分を選択し、右クリックすれば
「一致するフィールドレコーダーチャンネル」から黄色い文字で別トラックの候補が出てくる(下の画像参照)
例えばMixトラックからプリフェーダーのワイヤレストラックに瞬時に置き換えができる。

<活用2> オフラインのAAFのガイドトラックから、全てのマイク素材を一気に展開して表示させる
AAFガイドトラックの「A1」のトラック名を右クリックし、「フィールドレコーダーガイドトラック」にチェックを入れる。
またレコーダーのオリジナルWavファイルをセッションに全てインポートしておく
「A1」のガイドトラックの冒頭から終わりまでの範囲を選択して、右クリックし
「一致するフィールドレコーダーチャンネル」→「チャンネルを新規トラックへ拡張」→「一致条件で」
とクリックするとそのトラックの全ての素材が展開される。
録音したトラック数やトラック名によっては膨大な数のトラック数に展開されることがあるので注意すること
この操作をA2トラック、A3トラックと繰り返せば、簡単に全トラックの素材を表示できる。
<トラブルシューティング>
オフラインのAAFからオリジナルのレコーダーのファイルにリンクできない場合
AAFエクスポートの時に、オリジナルのタイムスタンプが消えている場合がある。
(繰り返しになるが、この方法はオフライン編集時において、カメラで記録した音声ではなく、別で収録した録音機のWavデータを使用して編集している場合のみである)
確認する方法は、AAFをPro Toolsで開き、
表示→クリップ→オリジナルタイムスタンプ
表示→クリップ→トラック名
とチェックして、AAFとオリジナルのWavファイルでオリジナルタイムスタンプの範囲が一致しているか確認する。
AAFのタイムスタンプがクリップ毎に0:00:00:00などになっている場合は、AAFのエクスポートの方法が適正でなく、メタデータが消えている。
通常であれば、レコーダーのTCと一致している
またオリジナルの方にはチャンネル名があり、AAFの方にはチャンネル名がない場合も、メタデータが消えている証拠である。
この場合はオフラインソフトでAAFをエクスポートし直してもらうと解決することが多い。
筆者の経験上、以下のオフラインソフトからのAAFでメタデータ置き換えは成功している。
AVID Media Composer
Apple Final Cut Pro
Adobe Premiere Pro
Black Magic DaVinci Resolve
<活用3> Pro Toolsなどで録音したWavファイルでメタデータを活用してチャンネルを切り替える
前述した様にPro Toolsで録音したファイルはタイムコードは記録されているが、「シーン」「テイク」などのメタデータに関しては記録されていない。
しかし、手動でメタデータを追加すれば、<活用1>のように右クリックでチャンネルを置き換えることが可能となる。

Pro Toolsの上部メニューのウィンドウ→新規ワークスペース→デフォルト
と表示させ、Pro Toolsで録音したWavファイルの階層を表示する。
デフォルトのままではメタデータの「シーン」「テイク」「チャンネル名」などが表示されていないので、
ワークスペースウィンドウ上部の「ファイル名」と書かれているところを右クリックし、
「シーン」「テイク」「チャンネル名」にチェックを入れると表示されるようになる。
上の図の赤で囲まれたファイルは、フィールドレコーダーで録音したPolyphonicのWavであり、シーンテイクなどのメタデータが記録されている。
逆に青い方はPro Toolsで同時に録音された4本のマイクのmonophonic Wavファイルであるが、メタデータがない。
ここに手動でシーンテイクチャンネル名を入力してみると以下の画像のようになる
同時に録音したファイルに、”シーン1112″ ” テイク1″ と入力

そうすると赤いファイル4つはタイムコードとシーンとテイクが一致するので、フィールドレコーダーと同様にチャンネル置き換えができるようになる。

またクリップ表示にシーン、テイク、チャンネル名も反映されている。
この方法は長いファイルを複雑に編集した時など、右クリックで別マイクに置き換えができるので役に立つ。
※Pro Toolsのワークスペース以外にも、Sound DevicesのWave Agentというフリーソフトなどでも、Wavのメタデータを編集できる。
(Wave Agent のMacOS 10.15 Catalinaのインストール方法はこちら)
※「フィールドレコーダーチャンネルの一致条件」の「ファイル名の最初のxx文字」という条件をうまく設定すると、メタデータ上のシーン、テイクを入力しなくても候補として出てくる場合もある。
<活用4>メタデータを利用してAudio Suiteで複製したファイルからオリジナルファイルに置き換える(またその逆も)
今までの活用方法を踏まえて、シーン、テイクなどのメタデータが含まれるWavファイルを前提とする。
例えば、あるファイルにAudio Suiteをかけて作業していたが、元の状態に戻したい時に便利である。
やり方は、Audio Suiteの画面で図のように「個別ファイルを作成」「クリップごと」という設定でRenderするだけである。

右クリックすれば他のチャンネルと同様に黄色い文字で候補となって出てくるようになる。(下の画像参照)
注意点としてはmonoトラックにしか使用することができない。また「連続ファイルを作成」でRenderするとメタデータは消えてしまう。
筆者の場合は、現場でバックグラウンドノイズが大きかった時に、Izotope RXなどのノイズリダクションプラグインで、「強め」「弱め」などのパターンを作っておき、状況によってオリジナルにしたり、弱めにしたり強めにしたりという風に利用している。
その場合はファイル名の末尾に「-6」とか「Hard」などをつけて、わかりやすいファイル名にリネームしておくとよい。

2020/11/12 筆者K.T
31.Pro Tools & Meta dataその2
前回のPro Toolsとメタデータの反響が大きかったので、さらなる活用方法を追加
<活用5>オフライン編集用Remixにメタデータを残す
現場でのMixがうまくいかなった時、またサウンドオンリーを差し替えて編集してほしい時などに
ISOトラック(プリフェーダー素材)をProToolsにインポートし、オフライン編集用にRemixをすることがある。
ISOトラックについてはこちらを参照
ProToolsでEditしMixを修正したら、一般的には
Boom Mic Mix + Lavalier Mic Mix(ガンマイクMix とワイヤレスMix)
の2Mixに録音したWavファイルを編集部に送る
このRemixのWavを作る時に、Pro Toolsのバウンスや、内部バスに送って新規に録音などをすると
録音時のシーン、テイクなどのメタデータが失われてしまう。
メタデータが失われると、のちのポストプロダクション作業でRemixファイルは
AAFに対して手作業で合わせないといけなくなる。
これを防ぐためのメタデータを維持したRemix方法を説明する。
まず、元となるpolyponicファイルをProToolsのEDIT画面にならべる。
Track1 = Boom Mix
Track2 = Lav Mix
Track3 = Boom1 ISO
Track4 = Lav1 ISO
だとする
新規にステレオトラックを一つ作り
Boom MixとLav Mixのクリップをコピーする。
そのコピーしたクリップをにAudio SuiteのDuplicateで
個別ファイルを作成、クリップごと、ファイル全体の設定でレンダーする(下画像参照)

※この時Pro Toolsセッション設定(Cmd+2)でインターリーブにチェックを入れておく。
さもないとMonoファイルが2つとなってしまう
この方法でDuplicateするともともと4chのPolyだったWavがMixの部分だけの2chのPolyとしてコピーされ、
メタデータは維持される。ただしProToolsがファイル名の最後に自動で名前をつけてしまうので、Renameが必要。
そのRemixトラックにISO素材から音が送られるように内部Busを作り、Panを設定する。(下画像参照)
そして、Distractiveでパンチインする。
Distractive Recモードは、ProTools画面右上トランスポートのRECの赤丸をControl+クリックし、
”D”が表示されるまで、クリックする。
そしてRemixしたい範囲をして録音すればOK
メタデータが全て維持されたまま、上書き録音され任意の部分のみRemixすることができる。
もちろんファイル全体を選択して、全部Distractiveで録音しなおしても良い。

ちなみにこの場合Duplicateでオリジナルタイムスタンプが維持されているので
ProToolsのEdit画面のタイムコードに関係なくどこのタイムにおいてもタイムコードは変化しない。
つまりSpotモードで、オリジナルタイムスタンプの場所にファイルを置く必要はない。
<活用6>カメラとレコーダーでタイムコード同期して撮影したがAAFにタイムコード以外のメタデータがない場合
タイムコード同期を現場では行なっていたのだが、カメラのオーディオトラックだけでオフライン編集してしまい、
タイムコード以外のメタデータが一致しないので、フィールドレコーダーの一致条件に適合せず、自動置換えができない場合の対処方法
AAFをProToolsで開き、強制的にWavに変換してインポートする。(埋め込み式AAFにリンクではNG)
AAFから作成されたWavファイルにはオリジナルタイムスタンプはあるが他のメタデータはないはずである。
もしくはカメラのロールナンバーをメタデータとして入っている可能性はあるが、それはレコーダーのWavファイルとは関係がない。
そこで、
カメラ由来のAAFのWavファイルとオリジナルのWavファイルに両方とも共通のメタデータを入れてしまえばよい。
たとえば、サウンドロール(Tape)というメタデータ。
一度Pro Toolsのセッションを閉じてから
Sound Devices社のWave Agentというメタデータ編集ソフト、もしくはPro Toolsのワークスペースで
AAFのWavとレコーダーのWavそれぞれに同じサウンドロール(Tape)を入力する。
WaveAgentだとTapeというメタデータで、Pro Toolsだとサウンドロールという表記となるが、同じものと考えて良い。
WaveAgentのほうが表示されているWavのメタデータを一発で変えられるので簡単である。
(Wave Agent のMacOS 10.15 Catalinaのインストール方法はこちら)
WageAgentにオーディオファイルをドラッグしインポートしたら、
全て選択して、Tapeの項目を任意の数字(撮影日など)に変えて、左下のSaveを押せば更新される。
その後Pro Toolsのセッションを開き
フィールドレコーダーの一致条件で「テープ名」「サウンドロールと同じテープ名」「テープ名と同じサウンドロール名」「サウンドロール名」の4つにチェックが入っていれば、自動置換え候補にでてくるはずである。
ただしこの方法は、小規模なAAFの場合の方がよく、撮影日が何十日にも渡る大規模なオフラインのAAFの場合、タイムコードの重複が起こりうる。
タイムコード同期は基本的に時計と同じ時間が記録されているはずなので、
別の日の同じ時間に撮影したものがあると、全く関係ないWavファイルが自動置換えの候補として上がってきてしまう。
理想的にはTape(サウンドロール)のメタデータはその日の固有のものがよい。
筆者が数年前に撮影した作品はメタデータの「Tape」をカメラのロールナンバーと一致させると、自動置換えできるようになることがあった。どうやら、カメラのビデオファイルと、レコーダーのWavファイルとをタイムコードで自動同期させた時に、Wavのメタデータが消え、カメラで打ち込んでいたロールナンバーのメタデータに置き換えられていたのが原因であったと思う。
2020/11/13 筆者K.T
32.ワイヤレスマイク その2 周波数編
日本のワイヤレスマイク(イヤーモニター)で使われている周波数
ワイヤレスマイクはその名の通りケーブルがないので、機動力が高く便利であるが、
周波数や電波の知識を持っていないと、電波が途切れたり、混信したり、全く使えなかったりしてしまう。
いわゆるワイヤレスマイクと言えばB型の806-810MHzが定番であるが、
昨今、もっと周波数の高い帯域を使ったデジタル方式の低価格な製品が増えてきた。
↓スマホに最適化された表はこちら
名称 | 周波数 | 免許 | 音質 | 同一空間 使用可能波数 | 詳細 | 使用可能場所 |
---|---|---|---|---|---|---|
A型TV ホワイトスペース | 470-710MHz | 要免許 | 業務用 | 数十波以上 (場所による) | 地上デジタルTV放送波の 隙間を利用 | 使用場所限定 |
A型専用帯 | 710-714MHz | 要免許 | 業務用 | 6波程度 | 業務用専用の周波数 | 全国どこでも |
A型1.2GHz帯 | 1240- 1260MHz | 要免許 | 業務用 | 約13波程度 | 業務用専用の周波数 FPUと共通 (干渉の可能性あり) | 全国どこでも |
旧A型 (使用不可) | 770-806MHz | 要免許 | 業務用 | 数十波 | 2019年で使用不可 (携帯電話などに移行) | 全国どこでも 使えた |
B型 | 806-810MHz | 無免許 | 高音質 | 約6波 | ワイヤレスマイク専用の周波数 使いやすく便利だが、 普及しているので 混信の可能性あり | 全国どこでも |
C型 | 322MHz | 無免許 | 低音質 | 約4波 | 周波数特性があまりよくない 使いやすく便利だが、普及しているので 混信の可能性あり 学校などの施設のマイクや 美術館などの音声ガイドでも使われる | 全国どこでも |
DECT | 1895MHz- 1903MHz | 無免許 | 高音質 | 約3波 | Digital Enhanced Cordless Telecommunication コードレス電話のデジタル規格周波数を使用 Sennheiser AVXシリーズが有名 PHSやコードレスホンと干渉の可能性あり | 全国どこでも |
2.4GHz型 | 2404- 2483.5MHz | 無免許 | 高音質 | 10-14波程度 | 低価格でデジタル方式 Wifi/bluetooth/電子レンジなどの影響あり | 世界中 |
5GHz型 | 5.2GHz 5.3GHz 5.6GHz | 無免許 | 高音質 | 10波程度 | ワイヤレスマイクとしては あまり使われていない Wifiと干渉する 気象衛星やレーダーと干渉する危険があるため、 日本では屋外の仕様の制限がある Teradek boltやHollylandなどの 映像無線化装置もこの帯域を使用 | 世界中 (屋外制限あり) |
A型 TVホワイトスペース帯について
高音質なワイヤレスマイクをで何十波を同時に使える非常にプロフェッショナルな周波数帯である。
総務省から認められている場所で、免許人が申請しないと使用できない。
業務用として敷居が高いワイヤレスマイク(イヤモニター)であるが、ライブや舞台などでは
同時使用の波数が多いので、必然的に選択肢はここしかない。
TVホワイトスペースとは地デジで使われていない隙間の周波数を意味するが、周波数としては膨大なリソースがある。
海外のワイヤレスマイクも基本的にこの周波数を使っていることが多く、メーカーとしては技術的に同じなので、日本仕様( 送信出力10mW)を作りやすい。
ちなみに日本でワイヤレスマイクを使うには送信機に総務省の技術基準適合証明(技適マーク)がなければならない。
ただし受信機やアンテナなどは海外製品を使っても問題はない。
ホワイトスペースのワイヤレスマイクが使える場所は以下のサイトを参照
総務省「TVホワイトスペースチャンネルリスト」
ちなみにチャンネルリストに登録したい場合は、数ヶ月かかり有料だが登録することができる。
免許とは
特定ラジオマイク運用調整機構(特ラ機構)を通じて総務省から免許を取得する
技適マークのあるA型ワイヤレスマイクが必要である
固定局 登録した場所でしか使えないので、都度使用申請は必要ない
移動局 全国で使える(TVホワイトスペースは全国の限られた場所)都度申請が必要
免許取得後、移動局を使いたい場合は、特ラ機構に使用申請をする
2021/1/29 筆者K.T
33.USB PD電源
PDとはPower Deliveryのことで、USB Type Cで対応している機器同士であれば最大100Wの電流を流せる規格である。
Type Cと同じコネクターだが、デバイス同士でお互いを認識して、必要に応じて5V以上の9V,12V,15V,20Vで最大5Aの電流を流すことができる。給電デバイス・充電デバイス・ケーブルの3つがPDに対応している必要がある。
一番身近な例だと、Mac Book ProのようなラップトップパソコンについているUSB typeC(Thunderbolt3)コネクターとACアダプターはUSB PD規格に対応している。
現場的での便利な使い方は
<1> USB PD対応モバイルバッテリー(USB PD Power Bank Battery)
<2> USB PD対応ACアダプター(USB PD AC/DC adapter)
<3> USB PD 15Vトリガーケーブル(USB PD 15V trigger cable)
以上3つを組み合わせて、業務用バッテリーの代わりに使用することである。
<長所>
・容量が100Wh近くのバッテリーの価格が業務用バッテリーに比べて安く、選択肢も豊富
・Mac Bookやスマホ/タブレットを充電するACアダプターと兼用できるので、機材や荷物を減らすことができる
・録音機などと同時にスマホやタブレットも充電できる(ENGバッグスタイルでは特に便利)
・USB PDでの充電は早い
・パススルー充電可能のモバイルバッテリーの場合充電しながら使用できる
・USB-Cはケーブルに裏表や送信受信側の区別がないので取扱が簡単
<短所>
・ロックするコネクターでないので、抜けてしまう可能性がある。
・複数ポートを持つバッテリーやACアダプターの場合、一つのデバイスを使用中に別のデバイスを追加で接続すると、電流量などを再編成するために、数秒間電源が切れてしまう。
・トリガーケーブルそのままでは使えないことが多いので、半田付けをしてコネクターを取り付ける手間が必要
・業務用Vマウントリチウムバッテリーほど容量の大きいものはほとんどない
詳細
1.USB PD対応モバイルバッテリー
PD対応のモバイルバッテリーはANKERなどが有名で、ラップトップパソコンを充電できるものであれば業務用の12 or 15Vに対応できる。スマホ専用のものは最大で9VまでのUSB PDしか対応していないものがあるので、仕様を確認すること。筆者のおすすめは99Wh(3.7V/26,800mA)程度のバッテリーがコスパがよく、飛行機内にも持ち込める容量であるので便利。


2.USB PD対応ACアダプター
PDバッテリーチャージにも使えるし、直接デバイスに電源を供給する用途でも使える。
これも同じくラップトップパソコンを充電できるものであれば、大概問題なく、大きさやポート数など様々なものが市販されている。
内部に窒素ガリウム(GaN)を使用しているものが小型でパワフルである。


3.USB PD 15Vトリガーケーブル
これが一番のポイントで、USB Type C コネクタ部分に「PDエミュレータ ICチップ」が入っておりPD給電デバイスから指定した電圧を取り出すことができる。Amazonなどで購入できる。筆者は購入した15Vトリガーケーブルの2.1mmDCプラグをHIROSE_HR10A-7P-4Pコネクターに自分で付け替えて使用している。XLR-4pinメスなどに変更も可能(自作ケーブルは発火やショートの危険性があるので自己責任でお願いします)
ただしトリガーケーブルは12Vのものもあるが、12Vはおすすめしない。筆者の経験上PD供給デバイスの種類よっては12Vケーブルでも9Vになってしまうことがある。また通常の業務用リチウムイオンバッテリー(14.4V)より電圧が低いので、録音機などの設定によっては電圧が低くLow Batteryとなってしまうことがある。以上の理由から15Vのトリガーケーブルをおすすめする。

2021/8/8 筆者 K.T.
34.DANTEその3 SCORPIOとLTC同期 (上級編)
Field recorder Sound Devices SCORPIO のバックアップ録音や確認用として
MacのDAW Pro Tools をタイムコード同期させて録音する方法
Audinate社のDANTE Virtual Soundcardが Apple シリコンに対応した。
SCORPIOのRec & StopとPro Toolsが連動し、なおかつフリーランのタイムコードも記録され、
最大32ch程度の録音ができる方法である。
(後述する方法ではPro Tools ReturnでSCORPIOのInputを使うので最大実質Mix2chと別でISOが28ch程度となる)

<テスト環境>
– Recorder –
Sound Devices SCORPIO(888など)のDANTE対応Field Recorder
SCORPIOは16ch analog input – などで32chのInputをMixできる
今回はMic16本をSCORPIOに入力する
– Mac –
M1-2020 MacBook Air (16GB) Big Sur OS11.6.2
Pro Tools Ultimate 2021.12
Dante Virtual Soundcard (DVS)4.2.3.1(有料)←2022年3月にM1対応
Dante controller (無料)4.4.2.2
LTC-MTC Convert App-Lockstep(無料) 1.2 ←これ重要
– TimeCode generator –
Tentacle sync EのLTC (24fps)
<SCORPIOとTentacleの設定>
Tentacle Sync EのLTC-Out をSCORPIOのTC inとReturn Bにそれぞれ接続する
筆者の場合は1つのSync EのoutをSCORPIOのLTC inに入れ、LTC outを同じくSCORPIOのReturnBに繋いでいる
もしくは単純なパラケーブル(Split Cable)でもよい
「Return B」にLTCを接続するのはRec中だけDANTE経由でLTCを出力してTrigger Recさせたいため(Analog INを節約)
SCORPIOはTentacleからのEXT TC in にSlaveしている状態として、また、Return Bに入れたLTCは音声として扱う。
まずInput設定からInput29 (任意)のソースはReturn B1とする。
そしてDANTE Out 29の設定で Dante 29 Outのソースは、Input 29のPre Fader Outと設定し(デフォルトのまま)
さらに [Stop Mute] と[Play Mute]を入れる
つまりRec状態の時だけReturn Bに入れたLTCがDANTE out 29から出力される


SCORPIO DANTE output Routing
1-16ch= Mic Input ISO
29ch = Input 29 Pre Fader(LTC for trigger Rec)
31ch = Mix L
32ch = Mix R
そうすると
SCORPIOの32chをDANTEでPro Toolsに送ることができる(LTCとMix含む)
以下のMac側の設定をすれば、
SCORPIOが録音している時だけ、LTCが出力され
それをトリガーにしてPro toolsがタイムコード同期して録音されるようになる
<Macの設定>
SCORPIOとMacBookをLAN Cableで繋ぐ
・Dante Virtual Soundcard (DVS)
32ch x 32ch でStartさせる
・Dante Controller
MacとSCORPIOをRoutingする
基本的にはそれぞれの32ch in & outを斜めにチェック入れればよいのだが、
Mixも録音したいので、上述した用ににSCORPIO内部のoutput routingで
DANTE out 31ch=Mix L / 32ch=Mix Rとした方が良い
・Lockstep App
Dante Inの29からVirtual MTCを生成するように設定する
Macが LTCを受けると自動的にPro Toolsの着信タイムにタイムコード表示される
-20dB 程度LTCのレベルメーターがふれていないと反応しない
ScorpioのInput 29の入力レベルで調整できる

・Pro Tools
SCORPIOとBit Depth/Sample Rate/ Timecode frame rateを同じにする
(例 24bit/48kHz/24fps)
録音するトラックを作成し、Inputを割り当てる。
(例 Mono x16 / Stereo x1)
録音したいトラックをRec Enable状態にする
また初期設定 – 操作 – 録音 -「トランスポートのレコードをロック」にチェックを入れる
この機能は最上位版Pro Tools Ultimateのみの機能でStudioでは使えない
(Preferences – Operation -Record -Transport record lock-)
この設定を入れると、LTCを受信すると常にPro Toolsが録音されるようになる
(入れないと、停止する度に録音待機状態にする必要がある)
トランスポートウィンドウで Record in sync 待機状態(Online Record)にすると
SCORPIOのRecとStopと連動するようになる
ちなみに、システム環境設定 -> キーボード -> ショートカット -> Spotlight -> [Finderの検索ウィンドウを表示]のチェックを外せば
Pro tools でOption+Command+Spaceを押せば、オンラインレコードのショートカットが使えるようになる。

<Pro ToolsのOutをDANTE経由でSCORPIOに戻す>
筆者の経験上DVSを起動している時は、Playback EngineでPro Tools機器セットを選択しても
うまく動作しなかった。Mac book ヘッドホンアウトなどと共存できない。全てDANTE内で信号を処理しないといけない。
つまり、Pro Toolsの音をモニターするのには、DANTE機器でなくてはならないので、
Pro ToolsのOutをReturnとして、DANTEに戻す必要がある。
Pro toolsの最終段 Outを1-2chから出力するようにする
Dante ControllerでPro ToolsのOut1-2をSCORPIOにRoutingする
通常は斜めにチェックを入れるので、Pro ToolsのOut1-2はSCORPIO Dante in 1-2となるはず
SCORPIO側
31chのInputをDANTE1
32chのInputをDANTE2
とすれば
Pro ToolsのReturnがSCORPIOでモニターできるようになる。
※注意点
音がループしてしまうので、
Pro Tools側のOut にMuteを入れるか、
SCORPIO側のDANTE Returnフェーダーを絞っておく
SCORPIO側はPFLでしか聞かない
などの工夫が必要。
<感想>
映画の現場録音でSCORPIOの確認用として、実際に試してみた。
一度設定してしまえばセッテイングが簡単かつ、タイムコード同期したまま連動して録音されるので便利この上ない
(SCORPIO側のTake ListのLTCからProToolsのファイルが探せるので、Pro Tools側の録音ファイルはRenameしていない)
特に、リハーサルなどでうまくいかなかったマイクの特定の部分を即座にチェックできるし
リアルタイムMixがうまく行かなかった時に、改めてRemixファイルを作ることができるなど簡単にやれることが多くなった。また、Mac Book AirにLANケーブルとiLokとPDモバイルバッテリーを繋ぐだけなので、
AC電源が確保できないロケーションでも気軽にPro Toolsを使えるのは、非常に便利である。
(従来は16chのインターフェースとアナログ接続ケーブルだけで、ものすごく大変だった)
<実際運用してみての問題点>
Mac Bookのディスプレイがオフになると、Dante信号が途切れることがある。
電源アダプター時は、ディスプレイがオフになるまでの時間を長くした方がよい。
まれに、ProTools起動時にClock Referenceが同期せずにAudio信号に多大なノイズが出ることがある。
その場合はClock MasterであるSCORPIOを再起動すると良い。
2022/4/7 K.T (2026/6/18追記)
35.録音部内の役割(パート)についての考え
以前コラムの2で従来の録音部の仕事について書いたが、その環境で育ってきて、今の時代にそぐわなくなってきたと思っている。
<録音部内の役割(パート)についての考え>
従来の録音部は
サード(機材管理などの補助職)
セカンド(メインブームオペレーター・現場の最前線)
チーフ(現場の仕切り・対外交渉・役者へのワイヤレスマイク装着)
録音技師(ミキサー、音響監督・仕上げまで担当)
と昇格していくのが通常だった
これはおそらくブームのみでNAGRAで録音していたワイヤレスマイクが無い時代からの古い慣例なのだと思う。常日頃思っているのだが、チーフ助手が、撮影リハーサルが始まる直前まで、ワイヤレスマイクを装着するために、現場から離れてメイクや着替えをしている支度部屋に行っていることがある。現場の仕切りや対外交渉をする本来の役割と矛盾していると思っている
従来のシステムは、簡単にいうと見習いから始まりブームオペレーターを経ないと、技師になれない
僕、個人の考えとしては
最初は、先輩録音部の手助けとしてサード助手で仕事を勉強するのは、
録音部の導入部としてはいいとは思うが、
1,2年程度経験を積んで、仕事をこなせるようになったら
自分の得意なことや興味がある方向に特化して行ったほうが
本人としても、録音部全体の利益としても良いのではないか、と思っている。
つまり適材適所のスペシャリストを目指してほしいと言うこと。
アメリカなどの海外では、
Boom Operator / Production Sound Mixerは録音部だけど違う職種だし、
同様に撮影部も以下は違う職種である
撮影監督DP/Camera Operator /Focus puller
今後、日本の録音部において段階に昇格するシステムを考え直した方がいいと思う。
つまり以下の様な慣習である
一人前のブームオペレーターになってからでないと、録音技師になれない
現場録音部だけど、ポスプロのMixや、Pro Toolsに詳しくないといけない
逆に、現場録音部の経験が浅いから、Pro Toolsに興味があってもポスプロのDialog Editerとして使ってもらえない
録音部経験が浅いからワイヤレスマイク装着担当になれない
録音助手経験を積んだら、ある程度の年齢で技師にならなければいけない
これからは例えば改善案として
・小規模作品でも構わないから、経験の少ないうちから録音技師(ミキサー)を担当する
・役者が目の前の「現場の最前線」が好きだったり、フィジカル的に恵まれたり、単純に楽しいから、ブームオペレーター専門となる
・女性の出演者が多い作品だから、録音部キャリアが短かったとしても、女性録音部がワイヤレスマイク装着担当になる(普通の話のようだが、今までの男性中心の映画業界では割とレアケース)このほうが女性出演者ともやりとりしやすいし、ハラスメントになりにくいのは当たり前
・男性出演者が多い作品の場合は、逆の同じこと
・音楽ライブシーンが好きで、現場でPro Tools操作するのが得意だから、音楽がらみのシーンが多いバンド系作品などで、現場でMulti Channel Rec /PAをして活躍する
・ポスプロ(仕上げ)に興味を持っているから、サード助手を経験した上で、現場の事情もわかる、リレコーディングミキサー・音響効果技師を目指す
・逆にポスプロのスタジオに勤めていたが、現場のミキサーになる
・英語が得意なので、海外スタッフが多い作品中心に従事する
・現場で動き回って仕事をすることが自分には向いているので、ベテランになってもミキサーにならない。(ミキサーのいる場所は現場から少し離れていることが多い)
・録音機材に興味があるので、機材管理やアレンジに特化する
など、さまざまな目指す方向性(ダイバーシティ)があっていいと思う。
従来の役割分担は時代にふさわしくなく、改善すべきことだと思う
個性があっていいと思う
ただし、段階的でわかりやすかった報酬に関する既存の慣例を変えるという問題はある
2022/9/3 K.T
36.My Sound Cart 2
Pro Toolsシステムのカートを紹介
Sound Cart / ALUMIS AK-46NPU
19inch Rack Case / MISUMI NFSB5-2020
Mic Preamp / RME OctaMic-D
Audio Interface / Metric Halo 2882 & ULN8
Controller / Waves Fit Controller
Sub Recorder / Zoom F8
HD-SDI Monitor / Portkeys HS7T Ⅱ
Wireless Mic. System
Transmitter / Wisycom MTP41s
Receiver / Wisycom MCR42 with PSC RF Six Pack
Anttena / Wisycom LNNA
Battery / Smart Tap PowerArq
Power Distributor /PSC Cart Power



<特徴>
・Metric HaloのオーディオインターフェイスとPro Toolsを組み合わせたシステム。
・マイクアンプとしてRMEのOcta Micも使っており、合わせて16本のマイク入力が可能 。
・ACがとれないロケ撮影時でも、バッテリー駆動できるように、全ての機材がDC仕様で構成されている。普段はポータブル電源を使っているが、Vマウントバッテリーでも使用可能。ACをつないで充電しながらの使用もできる。
・台車部もラッシングで留めているだけなので、簡単にラック部分と分離できる。
・サブレコーダー(F8)は主にTalkbackとTC用だが、バックアップとして2MixとRMEからのアナログ出力6ch分を録音 。
・イーサネット接続で STAGE UNIT(2882 & ULN8)を拡張可能。Lanケーブル1本で100mまで延長できる。 カートのインターフェイスも同時に使えるので、合計すると32chまでの録音に対応。
筆者2024/3/20 K.O
質問や問題がある場合は if you have any questions
info@yurta.co.jp